「安定成長」の維持へ
──さらに製品を広めていくために、ターゲットとして需要開拓に力を注ぐマーケットはありますか。
石井 引き続き、SMBのマーケットで需要を増やしていきますが、加えて大企業を新規顧客として開拓していきます。先ほども申し上げたように、エンタープライズのユーザーが増えています。しかも、トップダウンというよりもボトムアップで導入する機会が多い。ある企業の一部門が導入し、現場レベルで評価されて他部門が導入する。このような事例を横展開していきたいと考えています。
──競合製品はあるのですか。
石井 他社の製品は、競合というよりも協業といったほうが正しいかもしれません。クライアント端末での顧客管理として、スプレッドシート(表計算ソフト)を使っている大企業がありますが、アカウント数が多いと管理が煩雑になってくる。基幹システムでのDB管理はきちんと行っているものの、現場レベルではアカウント管理が大変になっているのです。
これは、私が勤務していた会社で、そのような状況だったという経験談でもあります。このような例は、特別なことではなく、多くの企業が悩んでおられるのではないかとみています。当社の製品を使っていただければ、クライアント端末での効率的なアカウント管理が可能になる。実は、多くの企業が悩んでいる課題を解決できる製品なのに、それほど知られていないというのが実際のところです。私も当社に入社する前は「ファイルメーカーの製品で解決しよう」とは思わなかった(笑)。だからこそ、当社の製品を知ってもらいたい。
また、先ほども申し上げたように、最初から大企業のなかで多くのユーザーが利用するのではなく、ボトムアップで徐々に浸透していくことが多い。そういった意味で、大企業での需要を掘り起こすことができると捉えているのです。
──需要を増やしていくうえで、パッケージとライセンス、どちらの販売を重要視しているのですか。
石井 両方です。製品を広めるためには、ユーザーが手に取って購入するというパッケージがポイントになっています。実際、家電量販店などでユーザーを獲得していますし、売上比率も高い。しかし、パッケージに加えてソリューション提案という点では、ライセンスも重要になる。ワールドワイドでライセンスビジネスを拡大していくという戦略も採っていますので、パッケージ販売を維持しながらライセンス販売を増やしていく。そのようなビジネスを手がけていきます。
──クラウド・サービスの提供は視野に入れていますか。
石井 視野に入れていることは間違いありませんが、何を提供するか、どのような形態で提供していくか、などについては言及できません。サービス提供が明確になった段階でアナウンスします。
──今後は、どのような成長を描いていますか。
石井 ワールドワイドで一貫したコンセプトなのですが、当社は「安定成長」を重要視している。しっかりと利益を確保して成長していく。このやり方で、当社は実際に成長し続けています。
しかも、米国本社は日本を重要なマーケットと捉えています。これは、日本での売上比率が高いことからも理解できるといえます。当社は、ワールドワイド全体の20%を占めているのです。
そういった点を踏まえ、これまでのビジネスモデルを踏襲する。米国本社も、日本ではドラスティックにビジネスモデルを変革するのではなく、今のビジネスをいかに維持していくかに期待しています。さらには、製品をいかに広めることができるか。これを達成することが私のミッションです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
さまざまな外資系メーカーを渡り歩き、これまでコンサルタントをはじめとして営業やマーケティング、事業開発などの職務を経験した。社長として企業の成長路線を敷いた実績もある。多彩な顔をもつ人物である。経営者としての得意技として、「一つは、これまでと異なったビジネスモデル構築など創造すること」と自身を分析する。
もう一つの得意技は、「社内外でコミュニケーションを図ること」という。就任してから、社員一人ひとりと密に面談し、パートナーやユーザーとのコミュニケーションを徹底して深めている。コミュニケーションの向上で、“お客様指向”を追求していくことに余念がない。
企業体質と石井社長の考えが組み合わさり、ファイルメーカーは今、メーカーと販社、ユーザーの循環サイクル「エコシステム」がうまく回っている。製品浸透の追い風が吹いている。(郁)
プロフィール
石井 元
(いしい はじめ)1962年7月、神奈川県生まれ。米ペンシルバニア大学ウォートンスクール卒業(MBA)。アンダーセンコンサルティング(現・アクセンチュア)でコンサルタント、モトローラやマイクロソフトで営業やマーケティング、事業開発のマネジメント職を歴任。セキュリティソフトメーカーのポイントセックで社長に就任、買収にともなってチェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズの副社長を務める。2010年3月、ファイルメーカーの社長に就任する。
会社紹介
ファイルメーカーのDBソフトは、デザイン事務所などクリエイティブ関連で使われており、製品を心底から慕っているというコアなファンが多い。また、SMBでユーザーを多く獲得していることに加え、最近では大企業の1部門が導入するケースが出てきた。そこで、“石井社長体制”では、規模の大小にかかわらず、製品を広く普及させることに力を注いでいる。