「安定成長」の維持へ
──日本製といえば家電やIT機器、クルマというイメージが強い。クルマはともかく、家電やIT機器は中国でどのように評価されているのですか。
羅 誤解してもらっては困るのですが、大手家電やIT機器メーカーは、すでに現地法人を構えて商売をしています。したがって、当社は中国での販路がまだ確立されていないジャパニーズ・ライフスタイル系の商材を売るという趣旨です。楽器専門店はこの6月に第1号店を上海に出店しており、ジャパニーズ・ライフスタイルや貿易仲介などと合わせて3年後には280億円ほどの売り上げを見込んでいます。
とはいえ、中国や韓国、台湾の家電・IT機器メーカーは、すさまじい勢いで力を伸ばしています。以前のように「日本製」というだけで、中国で売れるのかといえば、正直厳しい。パソコンや携帯電話に限っていえば、ノートパソコンなど一部の商材を除いて、すでに日系メーカーはじりじりと押されている状態にあるのは周知の通りです。
──日本の家電、IT機器メーカーが衰退すると、ラオックスの国内ビジネスにも悪影響を与えませんか。御社は中国などの海外からの顧客をターゲットの一つに位置づけていますよね。
羅 もちろん、日本のメーカーにはがんばってほしい。今年7月にも中国観光客に対するビザ発行の要件が緩和されるなど、中国人が日本に足を運びやすくなります。当社は、海外からのお客様であっても、日本の顧客と変わりなく、自由に買い物を楽しんでもらえるよう、受け入れ体制に力を入れますし、当然ながら日本のメーカーとの協力体制をより強化します。
日本ならではのIT機器や時計、海外仕様の家電、免税商品などを安く提供するのもその一つ。国内外のお客様を分け隔てなく、楽しく買い物していただける環境を整備することで、ライバル他社との差異化を図るということです。来日する中国観光客の7割方は、買い物が主な目的だと私はみています。デフレなどもあって、日本の商品は以前に比べれば安いですし、中国の中産階級層は急速に膨張しています。ちょっと手を伸ばせば、日本で買い物を楽しめる。このタイミングをうまく掴んでビジネスにつなげたい。
──蘇寧電器の状況を少し教えていただけませんか。中国で蘇寧電器のインショップ方式で100店舗出店するというお話でしたが、これは全店舗数のうち何割程度を占めるものでしょうか。
羅 まだ“何割”も占めませんよ。彼らは中国全土約200の都市で、およそ1000店舗を展開しており、今後さらに増える見込みです。2009年の売上高は前年度比16.8%増の583億元(約7870億円)ですが、貨幣価値の違いを考えると、日本国内トップの家電量販店と比べて遜色ないほど成長している会社です。このなかで、主要な店舗約100店舗ということですので、今の計画では“一部店舗”というレベルです。
──ラオックスの売り上げ目標はどのくらいですか。
羅 量販店である限り、当然、規模を求めます。経営計画の向こう3年の期間で700億円まで売り上げを伸ばします。昨年度(10年3月期)連結売上高が100億円弱でしたのでざっと7倍。伸びしろ分の600億円のうち、国内店舗事業が半分強と、中国への店舗進出ならびに貿易仲介事業が半分弱というイメージです。2000年初めには2000億円を超えていた当社ですから、原状回復というわけにはいきません。ですが、蘇寧電器と連携しつつ、これまでの日本の量販店になかった新しい店づくりに取り組んでいきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
事業立て直しでリストラを進めてきたラオックス。羅怡文社長は、「社員が減り、企業としての体力も消耗した」と、率直に現状を語る。厳しいなかでも、中国・蘇寧電器の支援のもと、4月に新規2店舗を予定よりも前倒しで出店した。国内量販店市場は、ヤマダ電機を頂点とする寡占状態。同じビジネスモデルでは、もはや勝てない。ラオックスは蘇寧電器と組む道を選んだ。
この蘇寧電器、実は、中国のIT商材の販売方式という面では“少数派”なのだ。中国では、ショッピングモールに中小の独立店舗が軒を連ねる“秋葉原のラジオ会館方式”が、全体の7割余りを占める。「だからこそ、資本力や全国規模のサービス網で勝る量販店方式の発展余地は十分にある」と、羅社長は伸びしろに着目する。
ラオックスと蘇寧電器の成長可能性の大きさに押されるが如く、日中IT商材の流通網のボーダレス化は急ピッチで進む。(寶)
プロフィール
羅 怡文
羅怡文(ら いぶん)。1963年、中国・上海市生まれ。96年、横浜国立大学大学院経済研究科修了。92年、東京・池袋に中文書店を開店。中国語新聞「中文導報」を創刊。95年、中文産業創立。97年、ラクラクコミュニケーションズ設立。06年、上海新天地(現日本観光免税)設立。09年8月、ラオックス代表取締役社長に就任。
会社紹介
ラオックスの昨年度(2010年3月期)連結売上高は前年度比76.1%減の96億円、営業利益は21億円の赤字だった。昨年、蘇寧電器と資本業務提携を行い、業績回復に向けた事業の再構築を推進。今期は新規出店も成し遂げ、今年4月からの12か月で160億円の連結売り上げ、営業利益2億円と10期ぶりの営業黒字化を目指す。