重点分野に経営資源を集中
──クラウド型ERP(統合基幹業務システム)サービス「GRANDIT for Cloud」の提供を開始されました。クラウドビジネスについて今後の見通しは?
吉野 クラウドがマーケットとして立ち上がるのかどうかについては疑問視しています。これまでパッケージをカスタマイズして、インハウスで使ってきたユーザーが、果たしてクラウドに乗り換えるでしょうか。よほどのコストダウンが確実に実現できるのなら話は別ですが、当社は中堅企業を狙っていますから、ユーザーがそこまで踏み込むにはもう少し時間がかかるとみています。とはいえ、何もしないわけにはいかないので、研究はしています。
長い目でみれば、クラウドへの移行は進んでいくでしょう。今年と来年はあまり売れず、3年目に大きく伸びるのではないかとみています。具体的な数値目標は掲げていません。2011年時点では、そんなにインパクトのある数字にならず、10億~20億円の範囲に落ち着くと思っています。
──中期経営計画で、ヘルスケア事業を注力分野の一つに据えておられます。
吉野 電子カルテという巨大なマーケットの周辺にあるニッチなマーケットでトップになることを目指しています。例えば、RIS(放射線情報管理システム)の分野では、すでに国内シェア1位を獲得しています。これまで相応に伸びてきていますが、まだ物足りない。
今後は、この領域でM&Aを進めたいと思っていますが、どの企業も元気だから難しい。ヘルスケアの分野は、不況の影響を一番受けにくいんですよ。業務提携も視野に入れて、2011年度までにヘルスケア事業を100億円規模のビジネスにしたい。
──ネットビジネス事業が好調です。どのように成長を加速させますか。
吉野 今期の見通しを立てる時に、成長がかなり鈍化するのではないかとみていました。ところが、第1四半期でみると、まだ伸びていて好調に推移しています。以前に携帯電話の着メロで一世を風靡したことがありますが、ピークが過ぎて売り上げが落ちてきた経験をしているので、一発当たるとすぐに次を用意しないといけないという強迫観念にかられるんですよ。
次の候補として、すでに八つくらいサイトを立ち上げました。ターゲットは20代から40代の女性。スモールスタートで、伸びそうなサイトを加速度的に育成するというやり方を採用しています。健康管理ができる「女性の悩みクリニック」については損益分岐点をクリアする水準にまできています。
──携帯電話向け電子書籍サービスを展開してこられました。iPadなどの新しいデバイスが登場して、市場が盛り上がりをみせていますね。御社にとって商機ではありませんか。
吉野 電子書籍に関しては、新しくアプローチをしたほうがいいかもしれません。社員には、「とにかくiPadに触って遊べ、そうしないと、それを生かしたアイデアは生まれてこない」と言っています。私自身もiPadで遊んでいるところなんですよ。現在は、ネットビジネス全体で100億円規模の売り上げがありますが、電子書籍はその半分もいっていません。
日本でアマゾンのような存在になれるのは凸版印刷や大日本印刷といった企業でしょう。当社は、コンテンツの集客のノウハウをもっています。出版社が売りたい書籍に対してプロモーションを展開する、ひょっとしたらプロモーターのような存在になるかもしれません。
──海外事業について、これまであまり触れてこられませんでしたね。
吉野 これから伸びていくのは中国でしょう。中期経営計画では、中国ビジネスについて明確に述べていませんでしたが、これだけ変化が激しくて、ダイナミックなマーケットですからね。上期の終わりまでには、中国進出に向けた戦略をまとめ上げたい。ソリューションとネットビジネスの両方で事業展開を考えていますが、ネットビジネスで問題になるのが課金のシステムと著作権法関連です。ソリューションについては、特徴のあるソリューションがあってもパートナーを得なければ売りようがない。パートナー探しを含め、今年の夏は社内の若い社員に調査に行ってもらいます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「深謀遠慮」という言葉が似合う。派手さはないが、堅実かつ着実に成長への足場を固めてきた。事業の見極めには慎重な姿勢を崩さない。その一方で、社内からの反発も覚悟のうえで、構造改革を断行する決断力も持ち合わせている。大鉈をふるって、個別の事業の見直しと人員の再配置に着手したのだ。
インフォコムは、中期経営計画のなかで重点分野として、データセンターをはじめ、「GRANDIT」、ヘルスケア、ネットビジネスを掲げている。
従来から医療系システムに強みをもち、業務提携やM&Aに意欲的な姿勢を示す。もう一つ成長株として期待するのがネットビジネスで、矢継ぎ早に新サービスを立ち上げてきた。これまで堅調に推移しているが、その語り口からは常に危機意識をもっていることが伝わってくる。
異なる事業領域をいかに成長基盤に乗せていくか、吉野社長CEOの手腕が問われる。(宮)
プロフィール
吉野 隆
(よしの たかし)1952年大分県生まれ。74年、帝人入社。98年、システム事業企画管理部長。00年、IT企画室長。01年、インフォコム取締役。06年4月、社長CEOに就任。
会社紹介
2001年4月、日商岩井系のシステムインテグレータ(SIer)であるインフォコムと、帝人系のSIerである帝人システムテクノロジーが合併して誕生した。現在は、帝人グループのIT戦略部門で、グループ向け以外の事業比率が高い。医療系システムに強みをもち、近年はネットビジネスが堅調に推移している。