今年で第14回となる「日中情報サービス産業懇談会」が、9月14日、中国西安市で開催される。情報サービス産業協会(JISA)と中国の業界団体である中国ソフトウェア産業協会(CSIA)のそれぞれの代表が意見を交換する場である。長城コンサルティングの張佶社長は第1回から懇談会に関わっており、日中の情報サービス業界の交流に最も精通した一人。日本の情報サービス産業が成長目覚ましい中国へ進出するうえで、業界同士の横の連携やパートナーシップは不可欠だ。日中IT業界のこれまでと今後の見通しをたずねた。
激変する日中ITビジネス
──日中情報サービス産業懇談会を最もよく知る一人であるとともに、中国ソフトウェア産業協会(CSIA)の東京事務所代表を務めておられるとうかがっています。
張 私は、第1回から参加させていただいているメンバーの一人で、両国を代表する業界団体の交流をお手伝いをしてきました。最初は、通訳として関わり始めたのですが、今では中国側の東京事務所代表という任を仰せつかり、今回の懇談会でも、双方の調整役を担わせてもらっています。
──いま、日本と中国の情報サービス業界は大きく変化しています。
張 第1回の日中情報サービス産業懇談会の趣旨が“中国のオフショア開発パートナーを探す”ことだったのが、今では“急成長する中国の巨大なIT市場をともに開拓する”ことに主眼が置かれるようになりました。この点は、大きく変わりましたね。集まる人数も、当初は日中双方でそれぞれ20人くらいでしたが、第5~6回あたりから参加者が増え始め、大連で開催した際には、日本側約100人に対し、中国側は300人余りが参加。運営側も驚くほどの盛況ぶりでした。こうした活動を通じて、日系ITベンダーの進出数が多い中国・大連ソフトウェアパークの本格立ち上げには、少なからず貢献できたと自負しています。
──いつ頃から流れが変わってきたのでしょうか。
張 第10回くらいからだと思います。2006年頃ですが、北京オリンピックを2年後に控え、中国の経済発展のスピードが目に見えて速くなった。富士通やNECなど、メーカー系は、すでに中国進出を進めていましたが、SIerの本格進出は緒についたばかり。機器販売ではない、ソフト・サービスを主力とする情報サービス業が、本当に中国に進出できるのか、疑問視する声もあったほどです。そこで、これまでの10年と、これからの10年を展望するというテーマで、パネルディスカッションを懇談会のプログラムに入れてみたのです。
すると、中国側から「日本のSIerは、ロクに中国語もできないのに、中国市場で仕事ができるのか?」という痛烈な意見が出ましてね。堪えかねた日本側のSIer幹部が、中国語で「そんなことはない」と反論。その方は中国語がとても流暢で、その場は収まったのですが、やはりしこりは残ったまま。
中国のSIerも、日本のSIerが中国市場に入ってくるのを嫌がっているわけではなく、方法がよく分からないだけなんです。日本のSIerとの取引が多いと、どうしても従来のオフショア開発の比率が高くなる。顧客から要件を聞き取り、設計をしていく工程は日本で行い、中国は製造工程が中心になる。このタイプの仕事に慣れると、自ら営業に出て、中国の顧客から注文をとってくるノウハウが身につきにくい。
──第10回の懇談会が開かれたのが06年頃とすれば、意外に早くから中国で受注を拡大する動きがあったのですね。
張 アイデアベースではありました。ただ、この流れが決定的になったのは、やはり08年のリーマン・ショックの影響が大きい。日本の情報サービス市場の飽和感が色濃い状態が続くなか、中国のIT市場は右肩上がりですから。
変化適応に奔走する中国。IT商材も組み合わせやすさや
スピードが重視される。このあたりがヒントでは?
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