新規商品・サービスの創出へ
──新しい中期経営計画と組織変更で堅調に伸びているということですが、課題はありますか。
下牧 スピードです。当社は、まだまだ市場の変化についていけていないというのが実情です。スピードをもたせるには、「柔軟性」「対応力」「先見性」がポイントになる。これを、もう少し強めていきたいと考えています。
──解決策はあるのですか。
下牧 組織変更で解決します。三つの事業本部制にしたのは、それぞれの事業を確実に遂行するという意味合いがあるのですが、実は事業本部制にしたということは、社内的には重要なことなんです。それぞれの事業本部長には権限を与えています。ですので、事業本部が担当するビジネスについては、迅速に手がけられるようになりました。
また、今回は取締役と執行役員を分けています。執行役員が「事業本部長」ということなのですが、では取締役は何をするのか。国内外を含めた経営戦略の策定です。昨年度までは、「取締役兼○○執行役員」でしたが、取締役と執行役員のどちらの職務を重視するかは、その人材によって異なっていたんです。
──取締役と執行役員を分けることで、それぞれが与えられた権限を遂行するようになるということですか。
下牧 その通りです。「責任の明確化」と言ったほうが正確かもしれません。事業本部長は事業計画に基づいて自らの任を遂行していく。取締役は、組織の“ライン”をもたない代わりに、全社的な視点で会社の成長を見据える。このように明確にすることが、当社の成長にとって重要なカギを握ると判断しました。
さらに、事業本部間の連携を強化するため、いくつかの案件で「特命プロジェクトチーム」を設けています。これは経営直轄、つまり取締役に権限を与えています。プロジェクトのテーマは絞ってはいないのですが、例を挙げれば、「M&A」「海外」などです。このようなテーマも含めながら、市場変化のスピードに対応していきます。
──「M&A」や「海外」などが例として挙がるということは、すでにその領域のプロジェクトが動いているということですか。
下牧 具体的に申し上げることはできませんが、進めていることは確かです。「海外」に関しては、すでに「グローバル戦略室」を設置し、海外展開の方向性を固めることに取り組んでいます。どの地域で拡大するかは今後詰めますが、中国やインドなど、市場が急拡大する地域を視野に入れています。また、これらの国は、オフショア開発でパートナーシップを組んでいるベンダーがいますので、アライアンスを強化するだけでなく、「グローバルでのシステム一元化」を切り口に、日本企業の海外進出を支援することに取り組んでいきます。そういった点では、SIとNIだけでなく、通信事業者と組んで回線サービスも提供するといったことも考えられます。
「M&A」は、DB(データベース)のマネジメント、ストレージ関連、セキュリティなどをテーマに実行しようと考えています。現段階では、明確なことは言えませんが、決まりましたら必ずお伝えします。
──業界でのポジショニングについては、どのように考えていますか。
下牧 業界トップというより、誰もが認めるような強さをもちたいですね。その地位を確立して、成長したいと考えています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
下牧氏が社長に就任した2008年から取材し続けてきた。抱いた印象は「慎重な人」。今回、インタビューして「大胆」という印象が加わった。組織変更がその現れだ。これまでも「SIとNIの融合」を進めていたのだろうが、「SIとNIの強みを生かす」というコンセプトに変えて両方の強みを生かしたクラウドベースの「サービス」を事業柱に追加。しかも、サービス事業でDCの設備に減益を覚悟して多大な額を投資する。「必ず大きな利益に結びつく」ことを確信しているからといえるだろう。
このような取り組みは、「今の中期経営計画が終了し、次の13年度からの中期経営計画を策定する時は合併から10年目にさしかかる」ため。他社にはない強さをもって成長し続けることが重要と判断した。「迷いの時期は終わった」と、大胆な策を講じた。今後は、「慎重かつ大胆」な策を講じることで、三井情報は成長路線へとひた走る。(郁)
プロフィール
下牧 拓
1950年3月6日生まれ。73年3月、上智大学経済学部卒業後、同年4月に三井物産に入社。電機・プラント関連の業務に携わったほか、ドイツ三井物産社長、欧州三井物産副社長など海外勤務の経験がある。08年5月、三井情報顧問を経て、同年6月に代表取締役社長に就任、現在に至る。
会社紹介
2007年4月、三井情報開発とネクストコムの合併で設立。当時、「SIとNIの融合」を実現できるインテグレータとして業界で話題を呼んだ。今年度から組織を変更し、SIを手がける「ビジネスソリューション」、NI機能の「プラットフォームソリューション」、SIとNIの両方を生かした「サービス」を事業の柱に据えて業績拡大を目指している。