2011年は「進化と深化」の年
──クラウドの事業拡大以外に、2011年度の事業計画の柱としては、どのようなものがありますか。
橋本 当社が2011年に取り組むべきことを言葉に現すと、ビジネスの「しんか」です。漢字で書けば、「進化」と「深化」の二つになります。これからの進化/深化に向け、2010年中には種を蒔き、準備態勢の約8割が完成しました。それを踏まえて、今後は各事業分野をグッと前に進ませたり、深掘りしていきます。
とはいうものの、2011年は、新しいことに取りかかるというより、力を入れるべきことを進化/深化させることに注力します。したがって、新規事業の立ち上げや大きな組織変更は考えていません。
──具体的に、進化/深化させていくのは、例えばどういう分野でしょうか。
橋本 現在も注力しており、今後もっと展開を拡大していきたいのが、業務プロセスの分析・最適化を目指したサービス「BAO(ビジネス・アナリスティクス・アンド・オプティマイゼーション)」です。BAOは、例えばコンピュータの中の作業を可視化することができ、それによって複雑化しつつある情報処理の効率性を向上させることができます。
日本は中期的にみると労働人口が減少しますので、GDP(国内総生産)を維持するには、企業の生産性を上げるしか方法がない。だからこそ、コールセンターやサービス産業などの業種で、BAOの潜在的な需要が高いとにらんでいるのです。
──BAO市場のポテンシャルをどのように引き上げていくのでしょうか。
橋本 当社は、ITに関しては強いけれど、BAOのターゲット業界の具体的な業務内容の知識に乏しいという弱点があります。それを解決するために、2010年中には、BAOのターゲット業界に精通するスペシャリスト56人を中途採用しました。彼らは、ITではなく、業務内容についてのスキルをもっている部長級以上の人材です。
中途採用などの施策に沿って、ITと業務内容の両方のノウハウを組み合わせ、BAOの導入事例を増やしていきたい。また、iPadやスマートフォンの法人利用が拡大していますので、BAOを新型端末に対応させることを推し進めています。新型端末の法人利用の普及が、BAOの事業拡大に大きな可能性をもっていると考えているからです。
──新規市場の開拓といえば、日本IBMがなかなかリーチできなかった中堅・中小企業(SMB)の獲得について、システムインテグレータ(SIer)などと連携しながら加速させていますね。
橋本 SIerさんと連携したビジネスがいいところにきています。おかげさまで、SMBにもIBM製品が売れ始め、ハードウェア・ソフトウェアの売り上げに好影響を及ぼしました。SMB市場のさらなる開拓に向けて、2011年は、SIerさんをはじめとしたパートナー戦略を強化していきます。
──2011年度は、2010年度に仕掛けたことの進化/深化を図る年だとおっしゃいました。見込みはいかがでしょうか。
橋本 2011年度は、売上高で一ケタ台前半の増収を見込んでいます。
・こだわりの鞄「今回の撮影のために、三越で手に入れた」という、ダンヒルの鞄。ノートパソコンやブラックベリーなど、仕事に欠かせない道具を入れている。造りが丈夫ながら軽量で、出張などに便利。さらに、下にあるチャックを開けると、小型の折り畳み傘が出てきて、急な雨降りにも安心だとか。
眼光紙背 ~取材を終えて~
今回の取材で、橋本社長は、IBMが取り組んでいるクラウドは、あくまでも同社が力を入れている「スマーター・シティーズ」と「スマーター・エンタープライズ」のソリューションを実現するためのツールだ、と強調。2010年11月に、11年3月から順次提供する企業向けパブリック・クラウド・サービスを発表した際にも、報道陣に向けて同じように話した。定義が曖昧ながら、さまざまな企業が「クラウド」を前面に押し出しているなかで、IBMはクラウドを冷静にみていることをアピールしている印象だ。
とはいえ、同社がクラウドによる事業拡大に寄せている期待は大きいといえそうだ。橋本社長は取材の最後に、「日本企業が直面している一番のチャレンジは標準化だ」と語った。まるで、グローバルで統合化したことを武器にした同社のパブリック・クラウド・サービスをアピールするかのように。(独)
プロフィール
橋本 孝之
(はしもと たかゆき) 1954年7月9日、愛知県生まれ。78年3月、名古屋大学工学部卒業。同年4月、日本IBMに入社し、ゼネラル・システムズ西日本名古屋営業所に配属。米IBMへ出向、帰国してから、93年1月に東京首都圏営業統括本部・第二営業部部長に、96年にAS/400の製品事業部長に就任。03年4月には、常務執行役員BP&システム製品事業担当に就任し、常務、専務と取締役を歴任した。09年1月から代表取締役社長。
会社紹介
1937年、米IBMの日本法人として設立。09年から、ITを活用して環境問題などを解決する“スマート事業”を展開している。「スマーター・シティーズ」は行政サービス、エネルギー、交通、医療、教育、公共安全の六つの領域で、また「スマーター・エンタープライズ」は財務・経理、人財、営業、IT、グローバル・チーミング(コラボレーション)、アウトソーシング、グローバル・チェーン(サプライチェーン改革)の七つの領域でソリューションを提供する。