日本IBMが、ソフトウェア事業の変革を進めている。新しいエバンジェリスト制度を進行させており、IBM製品で実現可能なコンセプトを明確化することによって、製品の拡販を図っている。市場での地位を確立することが最大の目的だが、製品の浸透に向けて、販社にとって売りやすい環境をつくることも目的としている。
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川原均・専務執行役員 ソフトウェア事業担当 |
日本IBMは、報道関係者やアナリストを集めて、ソフトウェア事業で取り組んでいる状況や将来像を説明するセミナーを開催した。開催場所は、静岡県伊豆市にある同社研修センター「天城ホームステッド」。1日半程度のセミナーだった。ソフトウェア事業に関して、報道関係者やアナリストを対象に、腰を据えてじっくりと説明するのは今回が初の試みだ。今回の会合は、日本IBM側からの説明だけでなく、参加者側も意見を述べるというスタイルだった。会合を開くに当たって、川原均・専務執行役員ソフトウェア事業担当は、「第三者からの視点で、当社の製品に対して意見を述べてもらいたい」と述べた。忌憚のない意見を収集して、ビジネスに生かすという狙いである。同社の製品を市場に浸透させるために、懸命の努力をしているという姿勢がうかがえた。
日本IBMがこのような動きをみせるのは、ミドルウェアを戦略製品として位置づけているためと思われる。同社は、「Lotus」をはじめ、「Tivoli」「Information Managemant」「Rational」「WebSphere」などのミドルウェアをラインアップしており、ワールドワイドで大型案件の獲得が進む。スウェーデンの首都ストックホルムでは「Smarter Cities」と称してIBM製品の導入によって交通量などの情報を一元管理し、渋滞を解消する手立てを講じている。現状の交通量を分析し、通行の最適化を図っているのだ。スペインでは、地域内医療連携によって医療費の削減や疾病予防などを実現しているという。一方、「日本では、ミドルウェアの価値を理解してもらわなければならない」(川原専務)とみており、ミドルウェアで実現できることをアピールしていく意向だ。
その一つとして、製品の伝道者である「エバンジェリスト」制度を改革した。従来は製品カットだったのを、「ソーシャルウェア」「クラウド・コンピューティング」「BAO(事業分析と最適化)」「セキュリティ」「BPM(ビジネスプロセス改善)」「ソフトウェア・ライフサイクル」の6分野に変更。「日本ならではの取り組み」という。分野ごとにミドルウェアで実現できることを訴えていくわけだ。
今回のセミナーでは、「Smarter Cities」などに代表されるように、同社のミドルウェアを導入することで、企業でも全社レベルで変革を図ることができると訴えたかったようだ。ミドルウェアによる「変革」が同社のソフトウェア事業におけるコンセプトであり、このコンセプトをベースに製品を浸透させていく。その実現には、エバンジェリストによる伝道が重要な要素であり、単にミドルウェアを提供するのではなく、ユーザー企業の経営者から現場レベルまで意識改革を視野に入れた提案によってミドルウェアの導入につなげていく。また、「ユーザー企業に理解してもらうことに加え、(ユーザー企業と接点がある)販売パートナーにとって売りやすい環境づくりも実行していかなければならない」としている。販社に対して、日本IBMのコンセプトがきちんと伝わるかどうかが、製品浸透のカギを握る。(佐相彰彦)