「SaaSプラットフォーム」を連携の軸に
──ところで、御社が現在とくに力を入れている事業は何でしょうか。
周 順番でいうと、これは中国語の日本語訳になりますが「輸入と創新」を最重要視しています。日本の優秀なIT技術とノウハウを中国向けにローカライズして、中国の産業発展に貢献するということです。そのなかで、SaaS事業や「スマート・グリッド」、RFID(ICタグ)を使ったシステムなどを中国に提供している。「IT産業が成長するために何が必要か」という、中国政府寄りの考えに従い、それを実践しているんです。
──「輸入と創新」の部分ですが、中国に適した技術・ノウハウとして、今後、どんなモノを仕入れて中国に展開していく考えですか。
周 中国企業の情報化は、日本に比べると20年以上も遅れているでしょう。実際のビジネスの世界で、ITがどれだけ使われているかという観点での見立てです。日本は細部までITが浸透していますが、中国はこれからなんですね。日本を大いに勉強する必要があります。
今回、日本のメイド・イン・ジャパン・ソフトウェア・コンソーシアム(MIJS)と中国電信西部信息中心(チャイナテレコム)、そして当社と協業して日本の業務アプリケーションを提供する基盤である「SaaSプラットフォーム」は、そうした日中間連携の一環になります。中国ではまだ、知的財産権の保護に関する甘さが残っていますので、SaaS型提供であれば、これを解消できるでしょう。
──それでも、中国で日本の製品を売るには、中国市場なりのノウハウが必要だと思いますが…。
周 会計ソフトウェアを中国で売ろうとすると大変です。税制も日本と異なりますし、法律も違う。中国では、地元ベンダーが開発した中国製ソフトとして用友、金蝶という二大会計ソフトがあり、競合がたくさんあります。販売を拡大するうえで、そうした分析が必要になることは確かです。
──成都ウィナーソフトが中心になって、MIJSのソフトをどのように売っていくのですか。
周 MIJSとの計画では、チャイナテレコムの四川省向けだけの事業としてではなく、中国全土を対象にしました。当初は四川省が販売先の中心になりますが、次に「長江デルタ地域」の上海などを視野に入れる。
販売方法としてはまず、当社の既存顧客に紹介します。そのなかには日系企業や欧米企業、政府系企業も含まれます。さらに、チャイナテレコムの顧客に対して、チャイナレコム名義でセミナーなどを開催し、中国内の企業を中心に各社のCEOやCIO(最高情報責任者)に来ていただき、セミナーの後に個別訪問してフォローする。最大の期待は、政府の力を借りるパターンです。政府の「中小企業管理局」や「商務局」では、企業の情報化水準を高めるために補助金を出している。現在、四川省政府と話が進んでいて、省内の中小企業/300万社に対して省政府から通達を出してもらって、今回のサービスを使えば補助金が出るようにします。
──中国政府は、なぜ中国内の企業のIT化を急いでいるのでしょうか。
周 これまでの中国の成長は、巨大な投資による成長モデルでした。しかし、それだけではなく、生産効率の向上によってGDP(国内総生産)を引き上げることをしないといけないと考えています。これまでは、国主導で財務会計領域を電算化することを推進してきた。次は、OAやグループウェアなどが入り始め、その次に生産効率を高めるための生産管理システムなどが入ってくると思いますよ。そのスピードは、想像以上に速いはずです。
・お気に入りのビジネスツール「SKAP」という中国メーカー製の鞄。牛革製で「フォーマル過ぎず、カジュアル過ぎないところが気に入っている」(周密・総裁兼CEO)という。周氏は、仕事の3分の1は中国と日本を中心とした海外を飛び回っている。出張時には必ず持ち歩いているそうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
イントネーションに多少違和感がある程度で、周密・総裁兼CEOが話す日本語は、ほぼ完璧といってよい。それは、録音した話し言葉のテープ起こしをする際に、より鮮明にわかる。言葉足らずの日本人経営者よりも、筋の通った話ができる。
それもそのはず。日本の大学を出て、日本の大手商社に在籍したことからも明らかな通り、日本人との豊富な交流経験で日本語の機微を学んできた。記者自身は、昨年6月に成都で開催した大イベントで初めて知り合った。中国人とは思えないほど腰が低く、酒の場も楽しい。経営者だと知るまでに時間がかかったほどである。
周氏だけではない。成都ウィナーソフト社員の多くは日本語を流ちょうに話す。日系ベンダーが中国進出するうえで、「信頼できる中国ベンダー」と組むことが必須となる。その点、日中両国の文化を知る同社は、提携相手としてふさわしいベンダーの1社といっても過言ではない。(吾)
プロフィール
周 密
(ZhouMi)1976年4月、中国四川省生まれ、34歳。99年3月、広島大学経済学部経済学科卒業後、同大学の国際協力研究科開発科学専攻を修了。2001年4月、三井物産の情報産業本部に就職。同社で2年間在籍した後、中国へ帰り、日本の事情をよく知る知人とともに、2006年5月、成都ウィナーソフト(成都維納軟件)有限公司を設立し、総裁兼CEO(最高経営責任者)に就任した。
会社紹介
成都ウィナーソフト(成都維納軟件)有限公司は2006年5月、「中国と海外の橋渡しをするIT総合商社」を旗印に設立された。成都市のIT業界で盛んな「オフショア開発」にとどまらず、「輸入と創新」を合言葉に、日本を中心とした海外IT製品を中国の顧客向けにソリューション販売したり、IT人材トレーニングなどをコア事業として展開している。とくに、海外のIT製品を使って中国内の産業サイクルを構築して中国IT産業に貢献することを目指している。現在の従業員数は約400人。