“海外出稼ぎ”では勝てない
――グローバル進出はどうですか。組み込みソフトの主要ユーザーである電子機器などの製造業は、海外展開を積極的に進めています。
簗田 確かにメーカーの「ものをつくって売る」という主要な活動の舞台が、海外へと移っている。国内の人口減少だけが原因ではなく、グローバルでの戦いに勝ち残るには、自らも世界へ出て行かないと勝てないという現実があります。「国内でそこそこのシェアがあっても、海外ではからっきし」という状態では、いずれ海外勢に追い込まれてしまう恐れがあるからです。
ただ、だからといって組み込みソフト業まで海外へ移転していくのかといえば、それは少し違うように思います。先ほどもお話ししましたが、付加価値が高い領域に絞り込んで、少人数で競争力のある組み込みソフトを開発するのであれば、あえて海外に移転する必要もない。量から質への転換であり、これをやらずして海外へ出て行けば返り討ちに遭う。まして、例えば日本の社員を中国に派遣して、特徴のない受託型の組み込みソフト開発を行うなどの行為は絶対にやるべきではない。これではもはや“海外進出”とはいえず、単なる“海外出稼ぎ”です。
――付加価値部分に特化しすぎるとガラパゴス化して、携帯電話や情報家電などの二の舞になりませんか。
簗田 日本の組み込みソフト業が生き残れるか否かという、非常にシビアな問題です。国内外のメーカーから「組み込みソフトはやっぱり日本じゃなきゃダメだね」と評価され続けなければ、日本の組み込みソフト業は生き残れない。
JASAでは、組み込みソフト業の競争力維持のために、国際委員会やハードウェア研究会、モデルベース開発・検証研究会といった15余りの委員会を運営するとともに、「組込み技術者試験制度(ETEC)」の実施を通じて技術者のスキルレベルの向上に努めています。また、今年11月には、毎年恒例となっている「組込み総合技術展(ET2011)」を開催します。この展示会は、専門展としては世界最大級の規模を誇っていて、組み込みソフト業の活性化に役立てています。こうした一つひとつ活動の積み重ねがあってこそ、業界の底上げが可能だと考えています。課題を一瞬で解決するような便利な魔法はありませんよ。
――日本のお家芸である電子機器の復活には、やはり組み込みソフトの競争力向上が欠かせません。
簗田 手のひらに乗るスマートデバイスから都市単位のスマートコミュニティに至るまで、これからあらゆるものがスマート化していきます。組み込みソフトはハードウェアを制御し、性能を最大限に引き出す役割を担うわけですから、ここで競争力を失えば産業全体に悪い影響を及ぼしてしまう。JASAとしては、何よりも若者が夢と責任感をもって仕事に取り組み、会員同士が協業できる環境づくりに力を入れる。こうした活動を組み込みソフト業の再起・刷新につなげていきたいと強く思っています。
・お気に入りのビジネスツール お気に入りは「コア手帳」である。「アナログ感がにじみ出るが、私は20年くらい愛用している」と話す。年末年始になると客先にも配布しており「1か月分の見開きが便利だし、手帳そのものが手頃な大きさ」であることが好評とのこと。
眼光紙背 ~取材を終えて~
コアの簗田稔社長は、組込みシステム技術協会(JASA)の4代目の会長である。JASAとコアは、実は切っても切れない関係にある。JASAの前身に当たる日本システムハウス協会は、コア創業者の種村良平会長が1986年に設立。当時はまだ「組み込みソフト」や「エンベデッド」などという言葉が一般化していない時代で、主にマイコン制御などのソフトウェアを開発している会社が多く集まった。
その後、組み込みソフト市場は拡大を続け、コア自身も“エンベデッドのコア”を名乗る。だが、リーマン・ショックや長引く円高、電子機器産業そのものの国際競争力の相対的な低下などの複合要因によって、組み込みソフトは伸び悩む。決してグッドコンディションではないものの、簗田会長は「種村が夢をもってつくった協会。今後も難しい舵取りが続くが、このまま衰退させるわけにはいかない」と、JASAとコアの後継者としての重責を果たし、復興を目指す。(寶)
プロフィール
簗田 稔
(やなだ みのる)1954年、青森県生まれ。77年、中央大学理工学部を卒業し、システムコア(現コア)入社。91年、SIサービス統括本部マイコンシステム部長。97年、人事本部担当本部長。03年、理事中四国カンパニー社長。05年、執行役員中四国カンパニー社長。08年、取締役常務執行役員エンベデッドソリューションカンパニー社長。09年、コアの代表取締役社長。11年6月、組込みシステム技術協会(JASA)会長に就任。
会社紹介
組込みシステム技術協会(JASA)は、組み込みソフトを強みとするSIerやソフトハウス約200社で構成する業界団体だ。「組込み技術者試験制度(ETEC)」の運営や「組込み総合技術展(ET)」を開催。また、国際委員会やハードウェア研究会、モデルベース開発・検証研究会といった15余りの委員会を通じて、同業界の技術水準の向上や市場調査などに貢献している。