組み込みソフトビジネスが岐路に立たされている。Android需要で息を吹き返したようにみえた組み込みソフトだが、業界関係者のなかには、「回復したのではなく、食いつないだだけだ」と厳しい見方を示す向きがある。組込みシステム技術協会(JASA)は、「国内の組み込みソフト開発費の減少傾向に大きな変化はない」と、2008年3月期をピークとする右肩下がり傾向に歯止めがかかっていないと危機感を顕わにする。この背景には、開発の最前線が海外に移っているという事情がある。
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OESF 三浦雅孝代表理事 |
スマートフォンのAndroid開発需要の追い風で、売り上げを伸ばす国内有力組み込みソフト開発ベンダーが相次ぎ、リーマン・ショック以降の不振から脱却する兆しがみえてきた。ところが、その矢先に震災や原発事故に伴う電力供給不足が製造業を襲った。製造業と表裏一体の関係にある組み込みソフトは再び危機に直面している。
組み込みソフトは、携帯通信機器や自動車、情報家電の価値を大きく左右し、日本の製造業の国際競争力を支える重要な役割を担っている。しかし、いくつかの構造的問題を抱えるのも事実だ。まず、新規の製品開発の減少が、そのまま組み込みソフトの売り上げ減に直結してしまう点が挙げられる。発注元の機器メーカーからみれば、組み込みソフトは“開発費の一部”であり、コスト削減の対象となる。製品開発や製造がコストの安い海外に移転すれば、組み込みソフトの開発も海外へ移行しやすい。
例えば、好調に推移するAndroid機の開発最前線は台湾や中国大陸であり、「開発の現場に張りついていないと、組み込みソフトの注文なんてとてもとれない」と、Android開発に詳しいOpen Embedded Software Foundation(OESF)の三浦雅孝代表理事は話す。OESFは国内外約110社からなる組み込み系の業界団体で、直近はAndroid関連ビジネスの拡大を目指し、代表自ら積極的に海外に出向く。JASAの門田浩専務理事は、「積極的に海外展開する会員企業が増えている」としながらも、一方で「国内でただ仕事を待っているだけでは、恐らく今後も受注が伸び悩む懸念がある」と、表情を曇らせる。
スマートフォン生産の中心は東アジアをはじめとする海外であり、そこでは地場の電子機器メーカーが急成長している。「日本の組み込みソフト技術が海外へ流出しかねない」との声が国内に根強くあるのも事実だが、OESFの三浦代表理事は、「今、外に出なければ、他のベンダーにその部分の開発を取って代わられるだけ。むしろ海外の開発最前線で活躍する彼らのパートナーになることが、日本の組み込みソフトの本当の意味での回復につながる」と、海外に“敵”をつくるのでなく“パートナー”になるべきだと訴える。(安藤章司)