政府のバックアップは不可欠
――DC新設は多大な先行投資となるわけですが、DCを活用したビジネスについては、どのようなプランをもっておられますか。
謝 今回のDC新設のスキームで重要なのは、大連でも比較的新しい開発区となる金州地区の中核的DC施設と位置づけられていることです。政府系の投資会社からも出資をいただいていますし、開発区に事業所を構えている企業や、これから進出する企業の情報システムをDCで預かったり、あるいは大連市や周辺にある開発区のユーザーの情報基盤を担っていきます。もう一つ、開発区を中心とする地元自治体の行政サービスも、このDCを活用する予定です。日本でいう自治体クラウド的な活用形態も想定しており、民間だけでなく、公共セクターの受注も見込んでいる点が、特徴の一つといえます。
――日立グループは公共セクターで多くの実績があるベンダーですので、中国政府が力を入れているスマートコミュニティ分野でのビジネスの可能性も見出せそうですね。
謝 中国の場合、基本的に国や自治体にバックアップしてもらわなければ迅速なビジネス拡大が見込めないという状況があります。地元政府の理解を得たうえで、開発区なら開発区の企業の情報インフラの整備に協力し、かつ同区域に入居している企業の業績向上に貢献する。ユーザー企業のビジネスが成功すれば開発区事業も軌道に乗り、税収も増えるわけです。スマートコミュニティに関しても、基本的には国や自治体が主導するケースが多く、地元政府とユーザー、当社や日立グループのみんながハッピーになるようなサイクルを回していくことがとても重要です。
――日立グループ向けのオフショア開発比率が多かったという御社のビジネスモデルも、今後は変わってきそうですね。
謝 直近の当社の売り上げ構成比は、中国地場のSIやBPOなどの案件が約3割、日立グループをはじめとする海外からのオフショアソフト開発が約7割です。中国での案件は、電子政府・自治体絡みの一括アウトソーシングも含まれており、BPO分野での実績も積んでいます。DCが竣工すれば、中国地場のBPOやクラウド需要を取り込んでいくことになりますので、オフショア開発比率は相対的に減り、2015年くらいには中国国内のビジネスと海外からのオフショア開発の比率が半々くらいになるかもしれません。とはいえ、国外からのオフショア案件がこのまま減り続けるかといえば、そんなことはないはずです。手組みのソフト開発は減少するとしても、逆にDCを活用したBPOは増える傾向にあります。直近で600人弱の当社グループの社員数を2015年には1500人体制へ拡充する計画ですが、このなかでBPOに精通した人材育成にも力を入れていくことで、ITライフサイクル全体をトータルでカバーし、ビジネスをスピーディーに伸ばしていこうと考えています。
・こだわりの鞄 お気に入りは、ACE(エース)の鞄だ。このコーナーの撮影のためのアイテム選びでは、「最初は今ふうのiPhoneにしようかと思ったけれど、社長就任の記念にと、妻といっしょに横浜の高島屋で買った思い出があるから」と、日本の老舗ブランドであるACEの鞄にした。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「実は、新聞や雑誌に出るのが苦手で……」と、少し照れながら話す謝銀茂総経理。DC開設を発表して以降、地元大連でも連日のように取材の申し込みを受けるが、断ることも多いという。それでも今回のインタビューに応じてくださったのは、「日立さんからの依頼とあれば、仕方ないね」と、日立グループの顔を立ててということもあったようだ。
これまで、大連市のハイテク産業の日本事務所の運営をはじめ、市政府の対日誘致活動やIT企業訪問団のとりまとめなど、地元大連の情報サービス産業の振興に努めてきた。今、中国の情報サービス市場は右肩上がりで拡大しており、なかでも大連のIT産業誘致は中国で一、二を争う成功事例となっている。
それでも、「質実剛健を重んじるのが私の性分に合っている」といい、自治体や業界団体と連携した公的な活動はもちろん、自らのビジネスでも堅実性や信頼を尊ぶ。(寶)
プロフィール
謝 銀茂
(XIE YINMAO)1968年、湖北省黄岡市生まれ。91年、大連理工大学卒業。経営工学とコンピュータ科学の2学科を専攻。97年、横浜国立大学大学院修了。経済学を専攻。日立グループ企業に勤めた後、2005年、大連創盛科技の董事長総経理に就任。大連市ハイテク産業に関わる日本事務所の立ち上げに参画するなど、地元自治体のIT投資誘致活動や大連情報サービス業の発展にも貢献してきた。
会社紹介
大連創盛科技は、2000年に中国・大連で設立された地場有力SIerである。2011年8月にデータセンター(DC)運営を担う日立グループなどとの合弁会社「日創信息技術」を設立。2012年11月をめどにラック換算で2000ラック規模の大型DCを大連市郊外の金州開発区に開業する予定だ。直近の社員数はおよそ600人。