“組み込みソフト開発の王者”といわれる富士ソフトだが、大口需要家である国内電機業界の不振や海外生産シフトの流れのなかで、ここ数年、業績のダウントレンドが続いている。同社はプライム(元請け案件)の拡大、プロダクトの強化、グローバル展開、グループの相乗効果を成長エンジンと位置づけた事業構造改革を強力に推進。「独立系SIerの雄」としての富士ソフト再起に向けた経営戦略を、50歳の若さでトップのバトンを引き継いだ坂下智保社長に聞いた。
構造改革で弱点克服に手応え
――国内情報サービス市場の停滞や変化の影響をもろに受けてきたのが、ここ数年の富士ソフトだという印象です。2011年10月1日に経営トップを引き継がれたわけですが、なかなか厳しい局面でのバトンタッチのようにみえます。
坂下 私は2005年から役員を務めてきましたが、残念ながら、業績面での過去4~5年のダウントレンドは止められませんでした。ただ、前任の白石晴久社長の指導の下、事業の中身は大きく変えることができたと自負しています。
ソフト開発の元請け受注比率の拡大、独自のプロダクトやサービスの創出、グローバル展開と、一定の成果を収めました。トップのバトンを引き継いだ私としては、前社長が断行した事業構造改革をより強力に推し進め、業績向上につなげていくつもりです。
――“組み込みソフト開発の王者”と称されてきた御社ですが、主力分野の一つだったフィーチャーフォン(従来型携帯電話)向け開発の実質的な消滅で大きな打撃を受けました。
坂下 まだ“消滅”はしてはいませんが、フィーチャーフォン向け組み込みソフト開発の上期(2011年4月~9月)の前年同期比の実績は金額ベースで半減しているのは事実です。とはいえ、組み込みは自動車やFA(ファクトリーオートメーション)、医療機器など幅広い分野で手がけていますので、そう簡単に“王者の座”を譲る気はありませんよ。
ある調査によれば、国内ユーザー支出ベースの組み込みソフト開発の投資額は、周囲がいうほど減っていません。ただ、ここで注意しなければならないのが、この支出金額が台湾EMS(電子機器の受託生産サービス)ベンダーへの委託分も含めて、どんどん海外へシフトしている点です。当社もユーザーニーズを先取りできるよう、海外での組み込みソフト開発体制の拡充を進めていく必要があります。
――2004年まで野村総合研究所(NRI)に勤務しておられたとうかがっていますが、たとえ同業でも、ずいぶんとビジネスモデルの違いがあるように思います。NRIのビジネスモデルを応用することはできますか。
坂下 他社と比較するつもりはありませんが、NRIは強固な収益基盤を築いていることは確かです。もちろん当社にも多くのすぐれた特色があり、その一つはビジネス領域の多様性だと捉えています。強みの方向性は彼我で異なるとみるべきです。流通サービス業から金融・証券業、あるいは業務アプリケーションから組み込みソフト、パブリッククラウドからプライベートクラウドに至るまで、ほぼ一通りのITソリューションを取り揃えている。これだけ幅広くビジネスを展開しているSIerは、ほかにそうはありません。
ただ、見方を変えれば、やや総花的な側面は否めません。国内市場が右肩上がりのときはよくても、いったん停滞してしまうと、総じてダウントレンドに巻き込まれやすい傾向がみて取れます。ここ数年の事業構造改革は、この弱点を克服することを主眼としているといってもいいでしょう。
[次のページ]