南アジアでビジネスを本格的に立ち上げる
──A10の米国本社は、日本の大手商社である三井物産が資本を入れていることもあって、日本でのビジネス展開を重視していると聞きます。日本での売上比率は約40%と、だいたい10%前後といわれる他の外資系メーカーよりもはるかに高い。さらに、小枝社長は、南アジアの事業を統括するヴァイスプレジデント職を兼務しておられます。日本法人が、本社機能の一部を担っているような印象を受けますが……。
小枝 昨年の3月に、南アジアの統括を任せてもらったのは、日本での急速な事業拡大を成功事例と捉え、日本のモデルを南アジアに横展開して、南アジアでもビジネスを成長させるという本社の狙いがあります。日本法人はこれまでの成功を踏まえて、一部の本社機能を担うというよりは、広い範囲で独自でオペレーションができる権限をもっていてもおかしくないという言い方のほうがいいと思います。日本の売上比率は米国とほぼ同じレベルに達しつつありますが、本社を日本に移したりとか、そういうつもりはまったくありません。日本法人としての強さを発揮して、A10全社の事業展開をリードするようなポジションをつくりたいと考えています。
──南アジアでの事業戦略、ビジネス展開の進捗について聞かせてください。
小枝 まず、有望市場であるインドからスタートして、徐々に南アジアの開拓を目指していきます。インドをはじめ、南アジアの国々は、IT市場が成熟している日本と違って、まだエマージング(発展途上)マーケットの段階にあるので、日本とは異なるビジネス戦略が必要とみています。とはいえ、アジアでは日本と同様に、ディストリビュータ(1次販売店)とリセラー(2次販売店)を通じてのチャネル販売を拡販の基軸とする方針です。現在は、1次販売店の獲得に取り組んでおり、パートナー候補の各社と話を進めているところです。
今後はインドに加えて、シンガポールや、「南アジア」に含まれるオーストラリア/ニュージーランドでもビジネスを本格的に立ち上げます。このほど、シンガポールとオーストラリアのそれぞれの支店に、私に報告を上げるマネージング・ディレクターを配置しました。組織づくりや販売体制づくりのスピードを上げて、A10の認知度を高めながら、南アジアのビジネスを伸ばしたい。まだ母数は小さいですが、今年は南アジアで、売り上げを前年比で3倍に増やすことを目標に掲げています。
──先日、ロードバランサ市場でトップシェアを握っているF5ネットワークスジャパンが、「セキュリティ」を切り口とした新しい販売モデルに踏み切るなど、メーカー各社が事業拡大に取り組んでいます。小枝社長は、他社の動きをどうみておられますか。
小枝 他社がどう動くかを、興味深くみています。しかし、A10は、販売の切り口を変えたりするなど、マーケティング中心で動く会社ではありません。製品開発と充実したサポート体制で、他社との差異化を図りたい。当社はこの3月、日本法人の一部として、日本語と英語で対応するサポートセンターを新たに設けました。今年中に、サポートセンターの人材に加え、営業やパートナー支援に携わる人材を増やして、人員体制を強化する投資に重点を置きます。
──2012年の事業目標を聞かせてください。
小枝 売上金額ベースで、日本のロードバランサ市場でシェア1位を獲りたいと思っています。
・お気に入りのビジネスツール 商談のキーポイントなどを書き留める本革製カバーつきのノートと、クルマを運転しながら片耳にかけて通話をする無線イヤホン。「『アナログ』と『デジタル』のビジネスツールを合わせて有効活用し、コミュニケーションの向上を図っている」とか。
眼光紙背 ~取材を終えて~
小枝逸人社長がこのインタビューで語っているように、「ビッグデータ」が、ロードバランサ市場に刺激を与えようとしている。「ビッグデータ」は、SNSにアップロードする写真や動画の量が増えることによって、データのトラフィックでは、従来の「ボイス(音声)」よりも「ビデオ」が大きな割合を占めるようになることを特徴としている。データ量が膨大になり、なかでも大量に発生するビデオのトラフィックを効率よく処理するために、サービスプロバイダやユーザー企業はロードバランサを必要とするというわけだ。
外資系メーカーがひしめく日本のロードバランサ市場において、A10ネットワークスは、日本での売り上げが全社の売上構成で高い割合を占めているという特色をもっている。小枝社長は、本社を日本に移すつもりはないと断言するが、日本法人を拡大し、“デファクト本社”のようなポジションを築こうとしている印象を受けた。(独)
プロフィール
小枝 逸人
小枝 逸人(こえだ はやと)
1994年、日本大学経済学部を卒業。日本オープンウェーブシステムズで、セールスディレクターとして通信事業者向けモバイルインターネットソフトウェアやメールシステムの販売を担当。デルに移籍後、グローバル・セグメント担当ビジネス・ディベロップメント・マネージャを務め、新規ビジネスの開拓などに携わる。モーティブジャパン(現 日本アルカテル・ルーセント)、日本アスペクト・ソフトウェアを経て、2010年3月にA10ネットワークスの代表取締役社長兼CEOに就任。2011年3月からヴァイスプレジデント 南アジアを兼務する。
会社紹介
ロードバランサ(負荷分散装置)メーカーである米A10 Networksの日本法人として2009年3月に設立。日本における製品のマーケティングや販売パートナーの支援を事業としている。販売体制は、NEC、三井情報、ユニアデックス、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)の4社を1次代理店として、新日鉄ソリューションズなど8社の2次代理店で構成。日立製作所をOEMパートナーとしている。