“頭”は他に置き換えられない
──では、第5DCではどのような仕掛けを考えておられるのでしょうか。
謝敷 例えば、当社のメンバーシップクラウドサービスである「absonne(アブソンヌ)」を軸に、さまざまな関連メニューを充実させています。より大規模な基幹業務システムを運用するための機能強化や信頼性の向上を図った次世代型の「absonne」サービスも、早ければ今年夏をめどに順次投入していく予定です。メンバーシップの名の通り、特定の複数の顧客が共有するかたちですので、システム品質水準を高いレベルで維持しながらも、ユーザーが自力で構築するよりもはるかに安く、運用の負担もかからないという特色をもっています。
──御社が得意とするミッションクリティカルな基幹業務システムで、今、大きな変化が起ころうとしていますね。
謝敷 OracleとSun、あるいはIBM PureSystemsなどをみると、再びハード・ソフトの垂直統合型のアーキテクチャがみてとれます。こうした動きが主流となれば、少なくともシステムインフラの部分については、従来型の受託ソフト開発同様、開発のボリュームが減る可能性があります。
──では、御社が考える成長分野とは、どのようなところでしょうか。
謝敷 システムビジネスには、おおまかにいえば設計、開発、運用の段階があります。開発はオフショア開発、運用はクラウドを活用することで大幅なコスト削減が可能ですが、少なくとも“頭”(設計)の部分は、置き換えが利きません。仮に“頭”の部分で他社と置き換えが可能ということならば、どのみちこの業界では生き残れない。だからこそ、知恵の出しどころである“頭”をフルに使うことで、ビジネスは大きく伸ばせると踏んでいます。当社は、同規模のSIerでは他に例をみない100人規模の若手精鋭を集めたシステム研究開発センター(通称:シス研)を長年運用していますが、最先端の技術を見極め、ユーザー企業の目利きになっていくためには、こうした投資が欠かせない。伸びしろを見出していくとすれば、誰にも置き換えることができない“頭”の部分を徹底的に追求し、当社にしかできない高度なITソリューションを伸ばしていくことに尽きます。
──10月1日に新日鉄住金ソリューションズへ社名変更を予定されますね。
謝敷 新日本製鐵と住友金属工業が経営統合し、新日鐵住金が発足するのに合わせたものです。新日鉄以外の一般顧客向けの売り上げが8割方を占める当社ですが、親会社グループ全体でみればエンジニアリングと化学、素材、そして当社を中核事業会社とするシステムソリューションの4分野は、鉄鋼事業の総合力を高めるという意味でとても重要です。グループの統合に合わせて社名を変えるのも、この一体感を強めていく必要があってのこと。また、当社がミッションクリティカルな領域に伝統的に強いのも、長年、鉄鋼事業を支える基幹業務を担ってきたことが大きい。
──当面はどのくらいの成長を目指しますか。
謝敷 切りのいい2000億円をイメージするのがわかりやすい。もちろん、ただ増やすだけでなく、中身を伴ったものにすべきですし、そうすることで利益もついてくると考えています。
・お気に入りのビジネスツール iPadを気に入った理由は、「扱いやすいだけでなく、コンテンツが充実しているから」だそうだ。
週末、リラックスした姿勢で、欧米著名大学の講義映像を閲覧するなど、「文化的な暮らしをより豊かにするツール」と、従来のパソコンでは味わえなかった使い勝手を堪能している。
眼光紙背 ~取材を終えて~
不可逆的な変化は、何もシステムだけに限ったことではない。ユーザー企業のビジネスそのものが「グローバル規模で変わっている」と、謝敷宗敬社長はみる。サプライチェーン一つを取ってみても、例えば日系メーカーがASEANで商品を生産して中国市場で販売するような三国間貿易。あるいは、日本のビジネスモデルをアジアの成長市場へ横展開するケースはこれまで以上に増える。
また、一般的なサプライチェーンはアジアで生産して米国に輸出する流れが多いが、「仮にあるタイミングで米国からアジアへとモノの流れが逆転するようなことがあっても、システム側で瞬時に対応する迅速性が求められている」と分析する。SIerにとっての本当の意味でのグローバル化とは、ユーザーのビジネスの変化の先を行く先進的なシステムを提供することであり、そのためには「高い技術力と品質を実現するだけの力量が試されている」と覚悟のほどを示す。(寶)
プロフィール
謝敷 宗敬
謝敷宗敬(しゃしき むねちか)
1953年、東京都生まれ。77年、東京大学経済学部卒業。同年、新日本製鐵入社。87年、コーネル大学経営管理学修士課程修了(MBA)。同年、新日鉄ソリューションズの前身となる新日鉄エレクトロニクス・情報通信事業本部企画調整部に配属。01年、新日鉄ソリューションズ発足。金融ソリューション第一事業部長。05年、取締役企画部長。09年、常務取締役。12年4月1日、代表取締役社長に就任。
会社紹介
新日鉄ソリューションズの昨年度(2012年3月期)連結売上高は前年度比1.2%増の1615億円、営業利益は2.9%減の107億円。今期の売上高は過去最高となる5.2%増の1700億円を見込む。営業利益は13.4%増の122億円の見通し。直近の海外拠点は中国に3か所、2011年12月にシンガポール拠点を開設。年内をめどにタイにも進出する予定だ。