顧客の売上増大にERPを役立てる
──クラウドをはじめ、モバイル、ソーシャル、ビッグデータなどがERP(統合基幹業務システム)をめぐる技術として注目を浴びています。SAPやオラクルのような外資系ベンダーに比べて、クラウドはともかくとして、御社を含めて国内ベンダーはあまり積極的ではないのでは?
中山 そんなことはありません。積極的に対応していこうと思っています。時代の変化に柔軟に対応する機能を、基盤である「intra-mart」に組み込んでいきます。
直近の例で、9月末に提供を始める「intra-mart」の新しいバージョンでは、スマートデバイスからも利用できるソーシャル機能を提供します。企業内SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)としての利用はもちろん、「Biz∫」に格納されている情報を、リアルタイムにソーシャル上に流すことができます。
従来は、PC画面をあちこちいじって能動的に情報を集める必要がありました。ソーシャルを通じて“気づき”を促進できるよう、ワンクリックで起票したりつぶやきのリンクから在庫の確認ができたりするようになる仕組みを提供します。「Biz∫」で特定の品目の在庫が切れているというつぶやきをもとに、従業員同士で討論することもできるようになります。
──ソーシャル機能を駆使することで、実際に新しいビジネス価値は生まれるのでしょうか。
中山 これは、やってみないとわからない。こういうものを提供して、どういう使い方が生まれるかを見たいし、教えてもらいたいくらいです。
──ソーシャルメディア上で毎日交わされる非構造化データを分析し、ERPに格納されているデータを連携させて企業の事業に役立てるというようなアプローチは考えておられませんか。
中山 その点については、やるべきかどうかを議論して、結局見送りました。マーケティング担当者はともかく、コンシューマの世界で流行っているソーシャルの情報を、ビジネスの現場で実際に使えるかどうかは未知数です。もうちょっと様子をみたい。
ビッグデータという観点では、デバイスのセンサからの情報を取り込めるようにしました。いわゆるM2M(Machine to Machine)です。こうして入ってきた情報をうまく活用して、売り上げを増やすことが重要になってくると思います。
これまでのERPは、業務効率の向上やコスト削減を実現するものという捉え方が一般的でした。そして、ERP自体はコモディティ化していますから、コスト競争や値段の叩き合いが起きています。差異化するには、売り上げ増大にERPを役立てられるようにする必要があると考えています。
・こだわりの鞄 英国ロンドンで購入した「エッティンガー」の鞄。「チャールズ皇太子御用達で、歴史のあるメーカー。事前にネットで調べて、現地で店を探して手に入れた」とか。しかし、想像していたのとは違ったらしい。「まず、汚れが目立つ。しかも重い」と、やや期待が外れた様子で苦笑いする。
眼光紙背 ~取材を終えて~
2011年末に開いたプライベートイベントの場で、中山社長は、「オラクルの業務アプリケーション群『Oracle Fusion Applications』と比べて、『Biz∫』は3年先を行っている」と発言した。ERP業界では最後発だが、かなり強気な姿勢だ。
国産パッケージのノウハウを結集して「Biz∫」のラインアップの充実を図るという設立当初の目的は、徐々に成果として現れてきた。内田洋行が「スーパーカクテルInnova」の開発基盤として、「Biz∫APF」を採用した実績は大きい。今回のインタビューで中山社長が語っているように、今後、ITベンダーから基盤としての引き合いが増える可能性がある。
だが、気にかかる点もいくつかある。例えば生産管理システムの開発だ。「今は販売管理や在庫管理に投資している。投資の配分の問題であり、まずは100点を取れるところから攻める」という。
現在、導入実績は166社を数える。3年後の目標は、1000社超えだ。(宮)
プロフィール
中山 義人
中山 義人(なかやま よしひと)
1966年、山梨県生まれ。92年、東京大学大学院修士課程(生命情報工学専攻)修了。同年、NTTデータ通信(現NTTデータ)入社。2009年6月、準大手・中堅企業向けERPの事業会社NTTデータビズインテグラルの設立に伴い、代表取締役社長に就任。NTTデータイントラマートの代表取締役社長を兼任する。
会社紹介
2009年6月、NTTデータが、グループ会社やSIer、ISV(独立系ソフト開発ベンダー)などと共同で、準大手・中堅企業向けERPの事業会社NTTデータビズインテグラルを設立。同年10月1日、SaaS/クラウドコンピューティングに対応したSOA/BPM基盤である「Biz∫」上で開発した「Biz∫販売」をはじめ、「Biz∫ePro_St@ff」、「Biz∫BI」、「Biz∫intra-mart」の4製品を発売。翌年7月、「Biz∫」製品の開発・実行基盤である「Biz∫APF」を発表した。