ERP（統合基幹業務システム）業界で、台風の目となりそうな大型商材がようやく姿を現した。2012年に入り、オラクルが満を持して投入したクラウド対応のアプリケーション製品群「Oracle Fusion Applications」である。SOA（サービス指向アーキテクチャ）やJavaを全面的に採用し、BI（ビジネスインテリジェンス）機能を実装する「Fusion Applications」は、Java EE準拠の「Fusion Middleware」上で稼働する。コスト増につながりがちなカスタマイズ、アドオン開発、システム間の連携などの負担を軽減できる。

　業界に与える影響は大きい。オラクルのパートナー企業は、「これまでのSIビジネスを見直す必要がある」と口を揃える。日本ユニシスの森隆大朗・サービス企画部業務ソリューション企画室チーフスペシャリストは、「『Fusion Applications』は、ほかのソリューションとの連携を前提に設計されているし、ノンプログラミングでかなり調整が効く」と、すぐれている点を挙げつつ、「ERPを導入、サポートして、不足分は開発するというビジネスではなくなる」という厳しい見方を示す。東洋ビジネスエンジニアリングの山岸弘行・ソリューション営業統括本部第2営業本部営業1部部長は、「アップグレードごとに多くの収益をあげるという従来のようなやり方が通用しなくなる。SIerにとっては自ら首を絞めることになる」と話す。

　新たな可能性も模索されている。TISの中村清貴・ITソリューションサービス本部ITソリューションサービス事業部事業部長兼ITソリューションサービス企画部部長は、「お客様の業務運用に即して、SLA（サービス品質保証契約）を細かく定義しているITベンダーはそう多くない。当社は、システム運用のノウハウをもとに差異化が図れる。そのほかにも、コンサルティングやBPOなどを付加価値として提案していく」と語る。森チーフスペシャリストは、「Identity ManagementやSOA、BIなど、幅広い知識が求められ、個々のスペシャリストと連携する重要性が増す。『Fusion Applications』は、ERPというよりもビジネスプラットフォームとしての魅力が大きい」とみている。

　“つくり込まない”ことを基本に据えた戦略は、国内勢にもみられる。注目に値するのが、NTTデータビズインテグラルが開発する「Biz∫」だ。クラウドに対応したSOA/BPMを基盤とする。各社ごとの固有の業務については、コンポーネントを一部差し替えることで対応できる。

　単なる機能勝負とは一線を画すこうした戦略。頭打ちのERP市場で、ビジネスのあり方は変容を遂げ、SIerは旧来のSIビジネスからの脱却を迫られることになる。（信澤健太）