事業会社それぞれの守備範囲で成長を期す
──IT業界は、ITベンダー間の生き残りをかけた競争が激化する一方で、クラウドの普及やグローバル化の進展などに伴って、大きな変化を迫られています。どのように対応していきますか。
林 なかなか難しい質問ですね。IT業界とその他の業界の共通点として、上流から最下流までの工程があります。つまり、研究開発して形になったものを、大量に販売し、運用する。この工程には、営業やプロモーションの活動も含まれます。当然、それぞれへの投資のやり方は異なる。
クレオとして、どの範囲までカバーするのか。広範囲をカバーしようとすれば、企業規模を大きくしていく必要がある。一方で、特化した領域で個性を出していくやり方もあります。当社は、どちらかというと後者の方向性で考えています。前者は、もっと体力のある企業がひたすらやり続けることであって、当社に勝ち目はない。ただ、二つのモデルは、そんなに明確に区分できるわけではありません。実際はもっと複雑です。製品によっては、研究開発から製品化、販売、サポートまで一貫して手がけることができる。大きな市場であれば、パートナー企業と機能分担しながらプロジェクトを進めることもあるでしょう。
今は、分社化した事業会社それぞれの守備範囲で、従来以上に成長することを目指したい。分社する前は、特性を生かし切るマネジメントが難しかったので、今はかなりやりやすくなりました。
クレオネットワークスは、お客様に対してクラウド環境におけるインフラ設計や運用などを提案しています。新しいブランドとしてクラウド型ビジネスプロセス管理プラットフォームの「SmartStage」を立ち上げ、時代の最新トレンドに対応しています。クリエイトラボは、富士通、ヤフーのコールセンターのアウトソーシングや営業支援などが伸びており、従来の延長線上で事業を成長させていきます。ハガキ・住所録ソフトの「筆まめ」は、製品自体が成熟していますし、市場は縮小する一方です。中長期的にどうするのか、悩みどころです。成功している事業なので、その次の判断が難しい。最も売り上げ規模が大きいクレオソリューションのソリューション事業は、既存のビジネスモデルの延長線上で事業を伸ばそうとしていて、企業を買収するのも一つの方法だと思います。クレオマーケティングの「ZeeM」事業は、生き残りをかけた競争がより一層厳しくなるでしょう。プレーヤーが収れんしていかなければ、どこも苦しくなります。どのようなアプローチを採るべきかを考えなくてはなりません。
──全体的に、既存の事業に粛々と取り組むという印象を受けますが。
林 そういうわけではありません。既存事業は、収益改善の余地がまだあるのかもしれませんが、確実に状況は好転しています。並行して、事業の拡大に取り組んでいく必要があります。加えて、まったく新しい事業として何が生み出せるのかを考え出さねばなりません。各事業会社が単独で、あるいはアライアンス(提携)を通じて、いろいろとできることはあるはずです。
──海外進出の計画は?
林 グローバルでみると、日本市場の成長率はさほどではありません。今まさに伸びている市場に進出すべきでしょう。とはいっても、これまでやってこなかったことを急にできるわけではない。パートナー企業と組んで、進めていきたいと思います。クレオマーケティングにとっては、NTTデータイントラマートが第一候補に挙がっています。システムの開発やサポート面では、お客様の海外進出に伴い、海外システムの構築をお手伝いすることも増えてくるでしょう。
眼光紙背 ~取材を終えて~
大株主であるヤフー出身の大矢俊樹社長の退任に伴い、白羽の矢が立ったのが生え抜きの林氏だった。大矢氏は、コストカッターとして社内のムダをなくし、利益を出せる企業体質につくりあげた人物だ。持株会社制に移行して以降、経営基盤の強化に一定の成果を上げた。
事業に精通している林社長に課せられたミッションは、売り上げを伸ばす術を新たに生み出すことだ。だが、その道筋がやや見えづらいという印象を受ける。「SmartStage」のような新しい商材を投入しているが、多くは既存事業の延長線上で売り上げを伸ばそうとしているようにみえる。例えば「筆まめ」は、ハガキ・住所録ソフト市場で圧倒的シェアを握るが、次なる成功モデルをいかに構築していくのか。
一方で、買収の可能性を否定していないし、発展著しい海外市場にも目を向けている。成長路線を目指して打ち出す“林色”に期待したい。(宮)
プロフィール
林 森太郎
林 森太郎(はやし しんたろう)
1960年、大分県大分市生まれ。1985年、大阪大学基礎工学部中退後、東海クリエイト(現・クレオ)入社。1997年、オープンビジネス事業部オープンシステム部部長。プロダクト事業部事業部長、ZeeM事業担当執行役員、取締役、クレオマーケティング代表取締役社長などを歴任。2012年、クレオの代表取締役社長に就任。
会社紹介
1974年、東海クリエイト設立。80年にパソコン用パッケージ分野に進出した。83年、日本語ワープロソフト「ユーカラ」シリーズを発売。90年、ハガキ・住所録ソフト「筆まめ」シリーズを市場に投入。現在、ハガキ・住所録ソフト市場でトップシェアを握る。04年、会計システム「CBMS ZeeM会計」を発売した。11年、持株会社となり、ガバナンス、株式関係に関する事業を除くすべての事業を、新設分割設立会社3社と吸収分割承継会社1社に移管承継し、既存子会社1社を含む5社のグループ新体制を発足させた。