サービス事業を成長エンジンにする
──御社は、バイオテクノロジー(生物工学)など、特定の分野に特化した技術力を強みとしているとうかがっています。この強みを、今後どう活用していくのでしょうか。 齋藤 従来に増して、研究開発に積極的に投資したいと考えています。これからの時代は、ネットワーク機器の販売だけではビジネスが成り立たなくなるので、技術力を磨いて、三井情報独自の製品・サービスを強化しなければなりません。私は、お金は使うべき、という考えをもっています。当社はこれまで、使い道のないお金を貯め込んでいるような財務体質をもっていました。このままでは、成長しません。研究開発への投資に使う金額については、まだ明確にイメージできていませんが、利益を投資に回す、収益の部分を開発に回すことを基本のスタンスとして、積極的に投資していきたいと考えています。
──三井情報は、今年度(2013年3月期)が現在の中期経営計画の最終年で、来年4月、次の中期経営計画を開始することになります。2014~16年度は、どのようなものをビジネスの柱としていかれますか。 齋藤 次の中期経営計画は、サービス中心のビジネスへの変革と、海外事業の本格化の二つが中核になります。海外では、2011年にロンドンとシンガポールに拠点を設立し、現時点で、三井物産向けのグローバルネットワーク構築を海外の主な仕事としています。今後は、海外でもサービス事業の強化を図り、エネルギー管理やビッグデータ分析など、国内で展開しているサービス商材を海外に進出している日本のお客様に展開していきたい。
──中国などアジアの成長市場では、日系企業はもとより、現地企業も含めて事業を拡大しつつある他のICTベンダーと比べて、三井情報の海外事業は若干遅れているようにみえますが……。 齋藤 当社も海外ビジネスのスピードを上げて、将来は現地企業をターゲットに据えたいと考えています。現在のかたちの海外事業は、あくまでもスタートであって、決してゴールではありません。
──サービス事業では、御社はデータセンター(DC)サービスの展開に力を入れています。今後、日本各地でDCを運営しているパートナーとの提携を強化し、共通のクラウド基盤をつくると聞いています。 齋藤 DCは、サービス事業を拡大するための有望な領域だとみています。全国のパートナーと密に連携し、各地のDCをDR(災害復旧)サイトとして利用するかたちで、お客様にシステムをサービス(クラウド)として構築・運用する提案を推し進めていきます。
──DCをはじめとするサービス事業は、次の中期経営計画の売上構成でどのような位置づけになりますか。 齋藤 三井情報の年商を現在の500億円(2012年3月期=515億4800万円)から600億円に引き上げたい。600億円のうちでは、サービス系の売り上げが2割を占めるという構成を考えています。つまり、ネットワーク機器の販売・構築を中心とする従来ビジネスの売り上げは大きく伸びず、サービス事業をエンジンとして事業の拡大を実現するということです。また、サービス事業を伸ばすと同時に、利益率を引き上げることに取り組んでいきます。ネクストコムと三井情報開発が合併した2007年には、およそ30億円の利益を計上することができたのですが、利益率をそれに近い数字に回復させることを目指しています。
・お気に入りのビジネスツール 東西ドイツ統一の象徴であるベルリン・ブランデンブルグ門の小型オブジェ。海外赴任先のドイツで手に入れ、「世の中が変わるシンボル」として、常に自分の机に置いている。「古いので、門の上の部分を飾る女神が折れているが、それでも絶対に捨てられない」というほど、お気に入りのものだそうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
三井情報の前社長である下牧拓氏は、昨年末の本紙インタビューで、独自サービスの展開を強化しなければ、NIerとして生き残れないと、ビジネスモデルを再編することの必要性を強調した。新社長の齋藤氏は、今回の取材で、サービスのメニューを拡充する方針を語り、サービス中心のビジネスに舵を切る姿勢をアピールした。
三井情報が力を注ぐサービスは、エネルギー管理だ。同社は、ビルや店舗内で空調や照明を自動的に制御し、省エネ化を図るクラウド型サービス「GeM2」を展開中。同サービスをビルの運営・管理を手がける大手事業者である森ビルに納入するなど、導入実績が拡大しつつある。齋藤社長は、「GeM2」を進化させたものとして、近々「GeM3」や「GeM4」の開発に着手することを明らかにしており、エネルギー管理を有望商材とみて、サービス事業の拡大に取り組んでいく。(独)
プロフィール
齋藤 正記
齋藤 正記(さいとう まさき)
1959年生まれ。82年、一橋大学経済学部を卒業後、三井物産に入社。同社のドイツ拠点で海外経験を積む。三井物産本体に戻り、情報産業本部アウトソーシング事業部の部長やICTソリューション事業部の部長を経て、2010年、欧州・中東・アフリカ本部のCAO(チーフ・アドミニストレイティブ・オフィサ)兼欧州三井物産CAOに就任。2012年6月、三井情報の社長に就いた。
会社紹介
三井グループのICT(情報通信技術)ベンダーとして、通信キャリアなどに向けたネットワーク構築をビジネスの主軸としている。2007年、同社の前身であるネクストコムが三井物産グループの三井情報開発と合併し、社名を三井情報に改めた。2012年3月期の連結売上高は、515億4800万円。従業員数は1918人(2012年3月現在)。東京・港区に本社を構える。