拡販する製品を2種類に特化
──課題はひと通り解決したのですか。 公家 まだあります。大きな課題は製品面です。Attachmateは買収を繰り返して大きくなった会社ですので、製品が非常に多い。その数は50~60種類に達しています。製品それぞれを伸ばそうというのは、現状の体制では不可能に近い。そこで、拡販に力を注ぐ製品として、Linux製品「SUSE」と次世代バックアップ/リカバリのアプライアンス「PlateSpin」をピックアップして、営業と開発など、ほぼすべてのリソースをその2種類の製品に集中することを決断しました。これは、日本だけの取り組みです。
──なぜ、この2製品を選択したのですか。 公家 バックアップ/リカバリは、東日本大震災によってBCP(事業継続計画)の観点で需要が増えています。しかも、「PlateSpin」は「次世代」と銘打っているように、競合他社の先をいっている製品と自負しています。具体的には、データバックアップとシステムバックアップ、ストレージの二重化にも対応しています。もちろん、仮想化もカバーしています。複数のバックアップ/リカバリ市場を網羅して、お客様のさまざまな要望にも応えることができるので、リプレースを促しやすく、マーケットシェアを高めることができる。「SUSE」についていえば、Linux市場が伸びているということと、レッドハットなど競合製品に負けないブランド力をもっている。そういった点では外せない製品です。
──2製品に絞った効果は、現時点で現れているのですか。 公家 先ほど四半期の売り上げが回復したと申し上げましたが、実は、この2製品に絞ったことも伸びた要因の一つです。新規のお客様に対しては、「PlateSpin」「SUSE」しか提案していませんし、既存のお客様に対しても「PlateSpin」と「SUSE」を積極的に提案した。これによって、この2製品が第2四半期の売り上げの8割を占めるようになりました。
──ほかの製品はまったく売らないのですか。 公家 もちろん、お客様から要望があれば対応しますが、営業担当者には、ほかの製品は売らなくていいと伝えています。力のある製品を「ドアオープナー」と位置づけ、お客様を開拓して“入口”を開ける。そして、お客様を理解し、ほかの製品も提案できるようになった段階で、積極的にアプローチをかけていく。そのような体制が確立するまで、半年から1年はかかると踏んでいます。現状の体制では、製品を絞ることが売り上げを伸ばすための最善策であることが第2四半期で立証されましたので、お客様がほかの製品に関心を高めるようになるまでは今のままでいきます。
販社網を2倍以上に拡大
──製品を絞ったことで、販社との関係が気になります。どのようにお考えですか。 公家 実は、パートナーシップを深めるうえでの販社支援制度に関しては、現段階ではノベル、ネットアイキュー、Attachmateそれぞれの制度をそのまま踏襲しています。ブランドごとに制度が異なっていましたので、バラバラというのが実状です。販社にとって最適とはいえませんので、一体感のあるものにしていきます。ただ、販社の売る意欲を高める制度に再構築していかなければなりません。さまざまな販社から話をしっかりと聞いて刷新することを考えています。そんなこんなで、新しい制度を策定するのに今年度いっぱいはかかる見込みです。ですので、新しいパートナー制度は来年度に立ち上げることになりそうです。
──「一体感をもたせる」ということは、各製品の販社支援制度が統一されるイメージですか。 公家 まだ詳細の詰めができていませんが、全体的に統一感をもたせて、さまざまな角度から販社を支援していくために、製品ごとに制度を刷新するというイメージですね。先に「PlateSpin」と「SUSE」の拡販に集中すると言いましたが、実は、この2製品はターゲットと想定しているお客様の企業規模や業界が異なっています。「SUSE」は、金融やテレコム関連の業界に強く、どちらかといえば大規模なシステムで導入するケースが多い。「PlateSpin」も、大規模なシステムでの導入がありますが、アプライアンスということもあって、中規模なシステムでも導入するケースが出ています。また、業界は幅広い。その意味では、それぞれの製品ごとにマッチした制度を策定することが販社に最適なものになると考えています。そして、両製品とも売る販社に対しては、それぞれの制度で手厚く支援する。販社がクロスセルに旨みを感じるような制度を策定します。
──販社網の構築については? 公家 現在、「SUSE」は1社、日本IBMさんがパートナーになってくれており、「PlateSpin」では6社が存在します。これを、来春をめどに「SUSE」で3社、「PlateSpin」で10社に増やすことを目指します。「SUSE」については、金融やテレコムに強いSIerとパートナーシップを組むほか、SAPさんのBIアプライアンス「SAP HANA」のOSに採用されていることから、その製品を売る販社を開拓することも視野に入れます。「PlateSpin」に関しては、仮想と物理の両方の環境でバックアップ/リカバリが実現できる強みを訴えて販社を獲得していきます。
──業績の目標を聞かせてください。 公家 販社を「SUSE」で3倍、「PlateSpin」で2倍程度に増やしますので、今後3年間で全体の売り上げを現状の2倍に引き上げていきます。
・FAVORITE TOOL 2010年にモンブランが故ジョン・レノンの生誕70年を祝して発売した筆記具「john lennonスペシャル・エディション」。万年筆(価格は10万3950円)とローラーボール(8万850円)をもっているが、「2種類とも購入したことは、さすがに妻に言えなかった」そうで、できるだけ目の前では使わないようにしている。
眼光紙背 ~取材を終えて~
日本ラドウェアや日本タンバーグなどの社長として、それぞれの会社でドラスティックな再編を実行してきた。「既存のものを壊して新しいものをつくり、危機的な状況にある会社を立て直すことが性に合っている」という。
だからといって、リストラで既存の社員を入れ替えるようなことはしない。「チーム一丸となって会社を成長路線へと導く」ことを念頭に置いている。業績不振で社内に蔓延するネガティブな雰囲気を打ち破るために、「大きな声を出して挨拶する」という、往々にして忘れがちなことを徹底的に行うようにした。もちろん、これが業績をもち直した要因のすべてではないが、オフィスに活気が溢れて、「社員のネガティブ思考は影が薄くなった」という。
今年度第2四半期は、ここ3年間で最高の売上高を上げ、社員のモチベーションは高まっている。あとは、販社網を構築して、どれだけ成長路線が敷けるかにかかっている。「必ず成功する」と断言する公家社長の腕の見せどころだ。(郁)
プロフィール
公家 尊裕
公家 尊裕(こうけ たかひろ)
89年、中央大学文学部卒業後、日本ディジタルイクイップメント(現・日本ヒューレット・パッカード)に入社。デルやF5ネットワークスジャパンで業務に従事した後、日本ラドウェアの社長に就任。09年、日本タンバーグの社長に就任し、シスコシステムズとの統合を進める。10年、シスコシステムズの執行役員に就任。12年6月、ノベルの社長に就任。子会社のネットアイキューの社長も兼務する。
会社紹介
1990年3月に設立。ネットワークOS「NetWare」を中心として順調にビジネスを拡大してきたが、「Windows NT」などマイクロソフト製サーバーOSの普及によって業績不振に陥った。昨年4月27日には、米国のThe Attachmate Groupの傘下に入り、現在、ノベルとネットアイキュー、Attachmateの統合を進めている。力を入れている製品は、Linux OSの「SUSE」、バックアップ/リカバリの「PlateSpin」。