自治体向けの防災関連システムに商機
──再成長を期すために、力を入れる事業は何ですか。黒田 一つは文教市場向けのシステムソリューション事業を考えています。パソコン教室で利用する生徒向けのシステムではなく、生徒の成績データを分析するツールなど、教員向けのシステムです。この分野では、リーズナブルで高機能の製品を提供することができていると自負しています。そういうことから、学校向けのバックオフィスシステムについて提案活動に力を入れます。私立大学をメインターゲットに据えて、関西と九州地域では著名な私立大学への導入実績が増えていて、非常に順調に推移しています。今後は関東地域でも拡販していきます。
もう一つは、ネットワークソリューション事業分野で、そのなかでも“コア中のコア”になるのが、自治体向けの防災用情報伝達システムです。自治体は、災害の発生に備えて、住民の命を守るために情報を迅速に伝えるシステムを導入しようとしています。理経は、衛星通信や長距離無線LANなどの技術に強く、さまざまなネットワーク技術と端末を活用した情報伝達システムを開発・運用することができる。この点をアピールしていきます。
──防災関連ソリューションで、具体的な納入案件は出ていますか。黒田 総務省が六つの自治体をモデルにして、「住民への災害情報伝達手段の多様化実証実験」を実施していて、その一つである江東区に、当社の提案を採用していただきました。
今までの防災無線では、屋内にいる人には自治体の防災情報があまり伝わっていません。そこで、無線だけではなく、ビルの館内放送やスマートフォン、デジタルサイネージ、自動販売機のディスプレイなど、さまざまな端末とデバイス、ネットワークを活用して防災情報を配信する実験に当社のソリューションが使われているのです。
この実証実験が成功すると、他の全国の自治体は、成果を上げた防災システムを取り入れるようになるでしょうから、競争優位に立てます。
目標としては、2~3年で全体の売り上げの20%を防災関連ソリューションで占めるまでに成長させていきます。
──御社のビジネスを大きく分けると「システムソリューション」「ネットワークソリューション」、そして「電子部品・機器販売」ですね。防災関連ソリューションが伸びると、各事業セグメントが占める売上高構成比率も変わってきます。黒田 各事業が伸びて、三つのセグメントの比率が均一になるのが望ましい。防災を含むネットワークソリューション事業の売上比率は、今、21.4%と低いのですが、ここで防災関連ソリューションを武器にして、とくに伸ばすわけです。
中国事業は静観、まずは国内市場に注力
──海外市場でのビジネス展開は、今後どのように進めていくお考えですか。黒田 30年ほど前から海外に進出していて、中国では、香港と深センに現地法人をもっています。香港では、中国のお客様の製品を米国に輸出するビジネスを展開しています。リーマン・ショックの影響で業績は決していいとはいえませんでしたが、前年度にようやく黒字化することができ、今年度も黒字で推移しています。
シンガポールにも現地法人を設置していますが、業務を完全に終えて清算の手続きに入っています。為替差損が大きく出て赤字を垂れ流し、ビジネスをこれ以上継続することは適切ではないと判断したからです。
──日中政府間の関係が悪化し、しばらく好転しないことも考えられます。中国事業に対する考え方を聞かせてください。黒田 今の日中関係を考えると、中国事業は黄信号と捉えざるを得ない。海外での売り上げはほとんどが中国市場ですが、すべてのお客様が地場企業で、日系企業は1社もありません。規模の小さなお客様も多いので、リスクがあります。ですので、今は中国事業に大きな投資をするつもりはありません。それよりは、国内の事業基盤を強化することにリソースを注ぎます。
──中期的な経営計画については?黒田 4年間赤字だったので、3年先の計画なんておこがましくて、中期経営計画は立てていませんでした。しかし、前年度にようやく黒字化することができたことと、今年度も順調なので、中期経営計画を久しぶりに立案します。第一線で働いている中堅社員12人を委員として、9月末に具体的な数字も含めた3年間の中期経営計画の案をつくってもらいました。それをもとに、今度は幹部で内容を精査し、来年2月には固めます。中堅社員に中期経営計画を任せてみたら、「実現できること」だけでなく「実現しなければならないこと」も織り込んだ案をつくってきてくれました。彼らは非常に現実的で、自分たちのやるべきことを理解しているということを肌で感じましたね。
──中期的な業績の目標を何に定めますか。黒田 今年度の業績は、前年度比2.1%減の83億7000万円です。減収の計画ですが、日本経済全体が停滞していますし、それはこの業界でも同じですので慎重にみました。ただ、期首に予想した業績を上回っていますので、今年度は期首の予想よりも、もう少し上を目指します。そして、まずは売り上げ100億円の復帰を目指します。
・FAVORITE TOOL サムソナイトのビジネスバッグ。造りが頑丈なところに惹かれて、サムソナイトのファンになったとか。ビジネスバックが発売されてからは、同じものを何度も買い求めて使っている。自宅に帰ることができない事態を想定して、バッグには歯磨きセットと髭剃り、ラジオを常時収納している。
眼光紙背 ~取材を終えて~
黒田社長は、就任早々に縦割り組織を組み替えて改編し、中堅社員に中期経営戦略の草案をつくらせるなど、古い考えや体制を改める取り組みを積極的に展開している。ただ、自身が中心となってけん引するというよりは、社員が主導して会社を生まれ変わらせるというスタイルを好んでいるように感じた。また、「赤字の時期に中期経営戦略を立てるなんておこがましい」と、謙虚な一面もみせている。
インタビューを通して、黒田社長の理経への熱い思いが伝わってきた。黒田社長は、理経一筋の人物だ。01年には、代表取締役に就いたものの、03年に退き、今年4月に社長に就任するまでは、事業統括本部長などを務めてきた経緯もある。「いろいろなことがあったからね」と、多くは語らなかったが、社長に就くまでには相当な苦労があったと推察する。今回のトップ就任で、かつては実現できなかった自身の求める経営スタイルを実践しているのかもしれない。(道)
プロフィール
黒田 哲夫
黒田 哲夫(くろだ てつお)
1947年生まれ。札幌大学外国語学部を卒業後、71年2月、理経に入社。96年にネットワーク事業部長を務めた後、98年に取締役に就任した。その後、99年に常務取締役、01年に代表取締役を歴任。03年に代表取締役を退き、事業統括本部長に就く。08年に取締役に復帰し、12年4月1日、代表取締役社長に就任。現在に至る。
会社紹介
設立は1957年。システムソリューション事業(売上高比率は46.3%)とネットワークソリューション事業(21.4%)、電子部品・機器事業(32.3%)を展開する。資本金34億2691万円、従業員数は156人(2012年3月現在)。11年度(12年3月期)は、売上高が前年度比2.6%減の85億5390万円、最終利益は2億9700万円(前年度は2億5900万円の赤字)で、4期連続の赤字から脱した。