「最適な経営システム」を売る
──課題としては、どんな点がありますか。 是枝 さらなる人材力の強化が必要だと捉えています。当社は、35年の歴史のなかで、計算センターからスタートして、オフコン(オフィスコンピュータ)、そしてハードウェアを捨ててソフトウェアの販売へと、何度もビジネスモデルを変えています。そうすることで生き残ってきました。
その経験からいって、クラウドが今後主流になっていく可能性が十分にある。長期的にみて、どこまでクラウドになるのか、完全なERP(統合基幹業務システム)パッケージまでクラウドになるのか、少し疑問に思う点もありますが、少なくとも多くの顧客がクラウドを活用することが想定されます。すると、営業パーソンはどうなるか。当社と顧客をつなぐ媒介者である営業部門が、いきなり顧客維持コストになってしまうかもしれません。そうしないために、いかに付加価値を提供できるかがこれからの課題になります。
例えば、経営コンサルティングの高い能力であるとか、ITにべらぼうに強い人材を育成するとか。あるいは極端な話、先生方よりも税務の専門知識に長けた人材を育成するとか。一朝一夕にはできませんから、長期にわたって取り組む必要があると思っています。
──営業拠点は全国主要都市に30か所ありますが、見直しはされますか。 是枝 拠点の撤退はまったく考えていません。これまではパッケージ販売を手がけてきました。時代の流れとともに売る製品は変わってきて、これからは人を売る時代になってくるというイメージをもっています。経営課題のためのコンサルティングサービスを提供するということは不変です。
経営方針には、どのマーケットにどういう方法で何を売るかを書いています。マーケットは、税理士、公認会計士とその顧問先の中小企業となっています。何を売るかに注目してほしいのですが、財務会計パッケージとは書いていない。「最適な経営システム」と明記しています。これまで、計算センターを経て、オフコンをつくっていた。今度は、クラウドを売るコンサルタントとしての能力を高めて、会計事務所というパートナーとともに企業業績の改善に寄与していきます。
コンシューマライゼーションを軸に
──数回にわたるビジネスモデルの転換を経て、御社の次のビジネスモデルはどう構築していく計画ですか。 是枝 “面”をとっていく、すなわちユーザーのすそ野を広げることが求められています。財務会計に関連するクラウドサービスを普及させるには、下は家計簿から上はERPの領域までカバーして、とにかく数で勝負しないといけない時代に突入しています。ただし、今の収益構造を支えているパッケージ販売は、これはこれで残ります。プライベートクラウドなどは、現状のビジネスモデルの延長線上にあります。継続的に成長していくには、新しいビジネスを立ち上げる必要があります。あまり多くは語れませんが、クラウド上のソーシャルサービスとカネを有機的に連携できるサービスを開発中です。
キーワードはコンシューマライゼーションです。つまり、一般消費者とその一部である企業の従業員が、普段利用しているコンシューマサービスをビジネス向けに提供する。例えば、財務会計パッケージのログインをFacebookと連携してしまう。するとFacebookユーザーは、自動的に財務会計パッケージを使えるようになる。NHN Japanの「LINE」(インスタントメッセンジャー)には、ものすごく可能性を感じています。財務会計とソーシャルがどう関係してくるのか、という疑問はあるかもしれませんが、いずれはクラウド上で連携することで相乗効果が生まれると考えています。
唐突に感じられるかもしれませんが、私はGMOインターネットの熊谷(正寿)君などとは同世代ですし、インターネット業界の関係者とは、会社間で定期的に交流があるんですよ。
──財務会計とソーシャルの関係については、もう一つイメージがつかみづらいのですが……。 是枝 人生死ぬまでどれだけカネを使うかわからないでしょう。人生に不可欠なカネにまつわる情報を表現しているのがクラウド上のソーシャルサービスです。財務会計パッケージをソーシャルサービスと連携させて、新しい価値を提供できる。要するに、今の業態のまま成長を期すなどとは、これっぽちも考えていません。やりようによっては、市場に非常に大きな影響力を及ぼすことになる。
──財務会計そのものはパブリッククラウドで提供しないのですか。 是枝 そういうわけではありません。上期はサービス収入のうち、月額のソフト使用料が3億700万円でした。ユーザー企業には毎月、パッケージの使用料を支払って使っていただいているわけですから、クラウドに変えても何の違和感もない。この層を、まずはパイロットユーザーとして広げていきたい。
すでに粛々と進行しているプロジェクトがあります。確定申告が必要な人がたくさんいる派遣会社などに向けて、すべてクラウドで確定申告ができるというサービスを提供する予定です。大株主であるNTTPCコミュニケーションズの基盤を使うかどうかはまだわかりませんが……。
このほか、セールスフォース・ドットコムの「Force.com」上で稼働する経費精算アプリケーションの「経費くん」を12月6日にリリースします。会計上の仕訳データを自動生成して、会計システムに連携させることができます。リリースまでに長くかかったのは、クラウドについてじっくりと勉強させてもらったからです。
・FAVORITE TOOLスポンサーとなっている日テレ・ベレーザと東京ヴェルディのサインボール。オリンピック選手も数多くサインしている貴重な品だ。小学生の頃はサッカー少年だった是枝社長は、今もサッカーファン。スタジアムに足を運んでは、ゴール間近で観戦しているという。「サポーターと一緒になって応援している」のだとか。
眼光紙背 ~取材を終えて~
是枝社長が「LINE」というサービスに触れるのは少し意外に感じた。計算センターを出自として、現在提供しているのは税理士・公認会計士事務所とその顧問先企業向けの業務用アプリだ。ソーシャルとはイメージが結びつきにくい事業を展開している。インタビューで飛び出してきた言葉、「クラウド上のソーシャルサービスとカネを有機的に連携できるサービス」。これはいったい何なのかと、思わず問い直した。
コンシューマライゼーションをキーワードに、ソーシャルやクラウドなどの領域で新しいビジネスを立ち上げる方針自体に違和感があるわけではない。すでに、ERPにソーシャル機能を組み込むベンダーは数社みられる。クラウドに関しては、言わずもがなである。
ソーシャルが、ビジネスに直接貢献するかどうかは未知数だ。一種のバズワード(実態不明の流行語)かもしれない。これからミロク情報サービスがどのようなサービスを打ち出してくるのか、楽しみだ。(宮)
プロフィール
是枝 周樹
是枝 周樹(これえだ ひろき)
1964年2月、東京都生まれ。1994年、ミロク情報サービス取締役。常務取締役執行役員、取締役副社長執行役員などを経て、2004年6月、最高執行責任者。2005年4月、社長に就任した。
会社紹介
1977年11月2日設立。税理士・公認会計士事務所、顧問先企業向けの業務用アプリケーションソフトの開発・販売などを手がける。顧客は、全国8400会計事務所、1万7000企業に及ぶ(2012年3月時点)。今期(2013年3月期)の上半期は、売上高が102億2800万円、営業利益が10億4900万円。