山本社長は、2013年の目標を二つ掲げる。一つは、ダントツのICTベンダーになること。富士通の独自テクノロジーを広めて、多くのユーザー企業・団体に最も信頼されるITベンダーを目指す。二つ目が、ICTのジャンルを広めること。これまでICTの導入が進んでいなかった業種や領域にそのメリットを伝え、個人・法人ともにユーザーを増やしていく。2013年度(14年3月期)のキーワードは「飛躍」。「富士通が日本全体を変える」と、山本社長は頼もしいコメントを口にする。
「ICTなら富士通」といわれる存在に
──2012年はどんな年でしたか。 山本 サービスビジネスだけでいえば順調でした。ICTは企業・団体にとって必要不可欠なものになっていて、ユーザー企業はICTに継続的に投資しているからです。サービス事業のなかでも、クラウドサービスはとくに好調。農業や医療は、従来、なかなかICTが入り込めなかった領域で、クラウドが出てきたことによって、ようやく使われ始めています。こうしたICT化が遅れていた業種向けのビジネスは、13年度以降さらに伸ばすことができると思っています。富士通のクラウドサービス事業は予想よりも早く計画を達成していて、クラウド事業の2012年度の売上高は、前年度に比べて1.5倍の1500億円に到達しそうです。
日本全体の景況感をいえば、家電業界をはじめとして、あまり明るい兆しがなく、課題の多い年だったと思います。経済というのは、業種によって浮き沈みがあって、好調な産業と低迷する産業がどうしても出てくる。それでバランスが取れているものです。しかし、現状は好調な産業が見当たらなくて、悪いところばかり……。それに日本と中国・韓国との関係悪化が重なって、不透明な状況をつくり出してしまった。
富士通も、デバイス関連のビジネスには厳しいものがありました。また、景気変動が大きかったことから、グローバル事業も影響を受けました。想定以上の景気変動にも耐えられるようにならないといけない。そう考えて、構造改革を加速し、強い体制づくりに取り組んでいます。そういう意味では、12年は課題整理の年でしたね。
──そうした環境を踏まえて、13年の目標は何でしょうか。 山本 二つあります。一つは、日本でダントツのICTベンダーになること。これは、シェアを何%にするとか、そういう話ではなくて、多くのお客様に「ICTだったらやっぱり富士通だね」と、すぐにイメージしてもらえる存在になるという意味です。そのためには、人員の増強が必要。富士通は、テクノロジーには自信があって、ある程度開花しています。これをお客様に理解してもらうために、営業を強化するなど、広く伝えるための施策を講じます。
もう一つは、先ほども少し触れましたが、農業や医療、教育など、今まであまりICTが使われていなかった業種に、どんどん入っていくこと。ICTのテクノロジーは、日々、どんどん進化しています。進化に伴って、今までICTの活用が進んでいない業種に魅力的なサービスを安価に提供することができるようになってきました。
例えば、これまでは、農家の人がICTを使いたくても、センサなどの機器やシステムの価格が高くて、手が出せなかった。でも今は、クラウドを使うことで、リーズナブルに提供することができるようになりました。
──富士通は、農業に積極的ですね。個々のユーザーから得られる利益は少ないと思いますが、魅力的なマーケットなのでしょうか。 山本 今は農業向けのICT市場規模は、ゼロといっても過言ではない。確かに、他の産業に比べて規模は小さいかもしれませんが、ゼロからのスタートだけに、ビジネスポテンシャルは計り知れないほど大きいものがあります。
もっとICTを活用して効率化しないと、日本から農業がなくなってしまいます。農業従事者の平均年齢は高くて、10年後には後継者がいなくなってしまう。ITを導入して生産性を上げるというのは、もはや必然のことだと思います。
[次のページ]