地方都市の活性化に貢献
──業種でみると、農業や医療機関が遅れているように、地域でみると、東名阪以外の地方の企業・団体のICT化が進んでいません。地方ビジネスの現状について、どうお考えですか。 山本 スマートシティ化が重要だと考えています。ただ、そのときに勘違いしてはいけないのは、スマートシティの考え方です。たくさんの人が集まってくる都市を効率化するという考え方が外国では一般的ですが、日本の場合は、人がいなくなるのをどうやって食い止めて活性化するかを考えなければなりません。そこには、先ほどの農業のクラウド化などが深く関わっていて、例えば、地域の農業にICTを導入することでビジネスが成り立つようにして、人を呼び込むようしないといけません。地域にとって、スマートシティ構想というのは、街の効率化ではなく、街を活性化することを意味する言葉なんです。
──地方に多く存在する中堅・中小企業(SMB)については? 山本 SMB市場で成功するためには、クラウドサービスが重要です。きめ細かいプランのサービスを用意して、SMBのそれぞれに適したクラウドを選択できるようにすることが大事。SMBは、ICTに多額の資金を投じることはできませんから、自分が使いたいときに使えるサービス型が最良の選択だとみんな理解しています。SaaS型のビジネスモデルというのは、どんどんバリエーションが増えているので、それぞれのSMBが求めるものを提供することができれば、SMB向けビジネスは伸びていくと思います。
海外展開は、東南アジアに集中投資
──グローバル事業については冒頭に少し触れていただきましたが、海外市場を改めて振り返ってみて、2012年はいかがだったでしょうか。 山本 富士通は海外ではチャレンジャーですので、市場環境を気にせずに攻める時期と捉えています。現在の海外ビジネスは、サービスビジネスは堅調に伸び、一方で、パソコンを中心としたプロダクト系のビジネスが景気動向の影響をかなり受けて厳しいのが実際のところです。富士通は、売り上げの7割がサービスで、3割がプロダクトなのですが、ヨーロッパでは6割がプロダクトでサービスが4割です。プロダクトは景気変動の影響をかなり受けて、ドイツを中心としたヨーロッパでは苦戦しています。これをなんとか、プロダクトとサービスの比率をひっくり返そうとしてチャレンジしているところです。
──国内と海外でギャップはありますか。 山本 ありません。世界経済は、地域の格差がなくなっています。ダメな時はどの地域もダメです。この状況は、ここ数年変わっていません。だから、世界がよくなったら日本もよくなるでしょうし、日本がよくなったら世界もまたよくなるということになるでしょう。
──富士通の海外売上比率は33.7%ですが、今後もこの比率にこだわりますか。 山本 はい。富士通は、ずっと40%という目標を掲げています。為替がいくら変動しようと、コンスタントに40%にしたい思っています。
──海外で注力される地域は、どこですか。 山本 ずばり東南アジアです。集中的に投資して、毎年倍々で伸ばすくらいの勢いでやりたいと思っています。基本的には日系企業の現地法人をターゲットにして営業展開し、そこでブランドを築いて、その後に現地資本の企業を攻めていくつもりです。
──中国はどうみておられますか。 山本 中国の売り上げは、あまり大きくないので、今回の政府間の摩擦は、大きな悪影響は受けていません。ただ、日中関係のこう着状態が長期化することを心配しています。短期的には、ICT投資が大幅に落ち込むとは思っていませんが、長期化すると現地の日系企業がインフラ投資を縮小する可能性がある。そうなれば、マイナス。リスクをしっかりと見定めて、安全な方向を確認しながら慎重に進めるつもりです。
──最後に、2013年のキーワードを教えてください。 山本 「飛躍」です。今は、政府・経済界ともに停滞感がありますが、日本全体を富士通が変えるくらいの意気込みで飛躍したいと思っています。
・FAVORITE TOOL 富士通製のスマートフォン「ARROWS」。普段から愛用してるものの、「使いこなせているかといわれれば、それほどではないかも……」と山本社長。しかし、セキュリティに対する意識は高く、「盗まれた時に備えて、見られて困るデータは、スマートフォンの中には絶対に入れない」のだとか。
眼光紙背 ~取材を終えて~
山本正已社長は、非常に早口な方で、短時間に多くの情報を発信する。会話がいったん落ち着いて、記者がメモを残そうとしていると、山本社長は「書くのに忙しそうだけど、話を続けるよ」と、間髪入れずに次の話題について語り出す。記者がメモをとっている間は、「(発言が止まるので)暇だね」というが、その裏には少しでも多くのことをIT業界に向けて発信しなければならないという心理が働いているように思えた。
2013年のキーワードとして「飛躍」を挙げた。「以前も使った言葉かもしれないが、飛躍したと私自身が実感するまで、言い続けるよ」と山本社長。氏が「KeyPerson」に登場するのは、今回で3回目になるが、以前のインタビューで「決して後ろ向きな発言はしない」と答えたように、今回も前向きな姿勢が目立った。堂々たるたたずまいで、決して相手に不安な気持ちを抱かせることがなく、強気なメッセージで周囲の人を鼓舞する。富士通のトップはまぎれもなくIT業界のトップ──。そう感じるインタビューだった。(道)
プロフィール
山本 正已
山本 正已(やまもと まさみ)
1954年1月11日生まれ。1976年4月、富士通に入社。99年にパーソナルビジネス本部モバイルPC事業部長、02年にパーソナルビジネス本部長代理に就任した後、05年6月、経営執行役に就いた。07年に経営執行役常務、10年に執行役員副社長を経て、同年4月、執行役員社長に就任。同年6月から代表取締役社長を務める。
会社紹介
ハード、ソフト、サービスともに国内トップレベルの大手ITベンダー。2011年度(12年3月期)の業績は、売上高が前年度比1.3%減の4兆4675億7400万円、最終利益が427億700万円。海外売上比率は33.7%だった。事業セグメントは、SIやクラウドなどの「テクノロジー」、パソコンやスマートフォンなどの「ユビキタス」、電子部品などの「デバイス」の三つに区分する。