日中双方にとって互いの存在は不可欠
──アジア市場での中長期的な成長を見越して、同地域での開発拠点の整備を進めておられるわけですが、一方で御社はソフト開発の自動化にも積極的に取り組んでおられます。すでに単体テスト工程で40%の工数削減を達成したり、特定業務のソースコードを100%自動生成したりするなどの成果もみられます。さらに一歩進めれば、アジアの開発人員そのものが数百人単位で不要になることも考えられませんか。 岩本 鋭い指摘と言いたいところですが、残念ながら、ソフト開発の自動化はそれほど容易なものではありません。表現の仕方が難しいところですが、イノベーションによって自動化の比重が劇的に大きくなれば、労働集約型のソフト開発はなくなる時期がいずれ来ると思いますが、ここ数年のうちは難しい。アジャイル開発でも、多くの人手を必要とする製造工程はあるわけですし、作成するドキュメントの量が少ないといえども、保守メンテナンスのフェーズに入れば、リバースエンジニアリングによるドキュメントの作成が必要になってきます。
ただ、労働集約型のソフト開発は、決してよいとは思っていません、強大なコンピュータパワーが安く使える時代になった今だからこそ、ソフト開発の自動化を中心とする生産革新を断行しなければならない。当社がやらなくても、いずれ世界の有力ベンダーが実現した時点で、ソフト開発ビジネスの勢力図が一瞬にして塗り変わる可能性もあります。しかし、労働集約型が消し飛ぶのは、少なくとも今ではありません。アジア市場で中長期的に成長していくための基盤づくりという意味合いも含めて、アジア地域での開発体制の強化は欠かせません。
──アジア最大の市場である中国との政治摩擦が続いていますが、情報サービス業への悪影響が懸念されます。 岩本 日中韓ともに新しい政治リーダーの下での関係改善が期待できますが、もう少し時間がかかる可能性もあります。中国については、全人代(全国人民代表大会)を過ぎた春以降になれば、本来的な対日政策が動き始めるでしょうから、注視していくつもりです。
当社の中国ビジネスの初期の頃、中国人民銀行や中国版郵便貯金のシステム構築を請け負った経緯もあって、金融担当が長かった私自身も中国へは80回余りは出張しています。中国の多くの経営者や友人と会うと、「日中双方の経済にとって、互いの存在は欠かせない」と異口同音に語ってくれます。私もそう思いますので、中国でのビジネスは粘り強く、時間をかけて取り組んでいきたい。
海外売上高1000億円余り上乗せを目指す
──国内ビジネスについては、どうみておられますか。メガバンクの基幹業務システム投資が本格化するなど、明るい兆しもあります。 岩本 メガバンクの基幹業務システムは、当社もプライムベンダーの1社として参入できましたので、金融分野は緩やかながら成長できるとみています。新しい政権になって国民ID制度やスマートコミュニティ、再生可能エネルギー、医療など、どのような施策が実際に実行されるのか、まだ少し読み切れない部分もありますが、公共分野でも大きく落ち込むということはないでしょう。
ただ、一般産業分野は国内だけに閉じたビジネスの比率は減っていき、海外市場と密接にリンクしたかたちへと変わっていきます。少子高齢化による市場の伸び悩みは避けがたいものがあって、だからこそ当社も海外への進出を積極的に進めてきたわけです。産業分野のユーザーに向けてグローバルITサポートが提供できる当社の強みを存分に発揮していきたいと思っています。
──今の中期経営計画の最終年度である2016年3月期に、海外売上高を3500億円に拡大する目標を掲げておられますが、今期見通しと比較して、まだ1000億円余りのギャップがあります。 岩本 中期経営計画では情報サービスベンダーとして世界トップ5に入ることを目指していて、これを達成するには海外で年商3500億円以上のビジネスを手がける必要があるということです。ご指摘の通り1000億円余り上乗せしなければならないので、短期的にはまとまった売り上げが期待できる欧米での追加的なM&Aが必要となってきます。経験則では年商分のM&Aコストがかかるので、毎年300億円強の投資で3年後に1000億円近い売り上げを上乗せできる。既存の海外グループ会社の成長分も加味すれば射程圏内に入りますし、直近の当社利益率と照らし合わせてみても、年間300億円程度のキャッシュフローは確保できる見通しです。
冒頭に触れたグローバルビジネスセグメントが黒字基調に転じ始めているのは、当社にとって大きな一歩です。少なくとも既存の投資分については収益を生み始めており、国内のビジネスも含めて世界で「Global One NTT DATA」体制が業績的にも整ってきたことを意味しています。グローバルトップ5入りを視野に、アクセルをさらに踏み込んでいく構えです。
・FAVORITE TOOL ノーベル賞の公式グッズのカフス。出張でスウェーデンに出かけたとき「ストックホルム市内で偶然見かけた」ものだという。大のカフス好きで、先日、ジャカルタに行ったときも「地元工芸品の木製カフスを買った」そうだ。自宅には50個に及ぶほどの自慢のカフスコレクションがあるとのこと。
眼光紙背 ~取材を終えて~
2013年5月にNTTデータ設立25周年を迎える。「Global One NTT DATA」を合い言葉に世界展開するグループの一体化を進めてきたが、同時に「世界の社員全員の心もまとめていく」(岩本敏男社長)と、「NTTデータ・ワンソング」をつくることを決めた。
社員数は国内で約3万人、海外で約3万人の計約6万人に増えたが、「それぞれの大切にしているものも違うし、文化や言語、宗教も違う。むしろ違いがあっていいという前提に立って心を一つにしていきたい」と、ワンソングでは、全世界の社員から歌詞やメロディを募り、世界6か国語に訳しながら制作を進めている。
「母国の経済発展に仕事のやりがいを感じている人もいれば、顧客のビジネスの成功に満足を得ている人もいるだろう。故郷の美しい山や川、家族を大切に思う人もいるが、それら全部含めて心を寄せ合い、一体感を強めることはできるはずだ」と考えて、「Global One NTT DATA」の一層の推進を通じてビジネスを伸ばしていく。(寶)
プロフィール
岩本 敏男
岩本 敏男(いわもと としお)
1953年、長野県生まれ。76年、東京大学工学部卒業。同年、日本電信電話公社入社。85年、データ通信本部第二データ部調査員。91年、NTTデータ通信(現NTTデータ)金融システム事業本部担当部長。04年、取締役決済ソリューション事業本部長。07年、取締役常務執行役員金融ビジネス事業本部長。09年、代表取締役副社長執行役員パブリック&フィナンシャルカンパニー長。12年6月、代表取締役社長。
会社紹介
NTTデータの今年度(2013年3月期)の連結売上高は前年度比2.3%増の1兆2800億円、営業利益は同5.7%増の850億円の見込み。今期の海外事業のグローバルビジネスセグメントの売上高は前年度比5.9%増の2320億円、営業利益は15億円と黒字に転じる見通しだ。海外売り上げは中期経営計画の最終年度の2016年3月期に3500億円を目指す。