クラウド型グループウェアを発売
──御社は「VAiOS」ブランドでプライベートクラウドやサーバー仮想化サービスを展開しておられます。その基盤上で、SaaS型サービスのメニューを揃えるということですね。 梶本 IaaS/PaaS事業は「DCの床面積=売り上げ」という方式になっているので、正直、当社のような中堅規模ベンダーは、アマゾンをはじめとする大手外資系のクラウド事業者と勝負しにくいとみています。だから、当社はクラウド型ストレージや仮想デスクトップといったSaaS型サービスも用意して、クラウド事業者というよりも、「サービス提供会社」を目指して動いています。今後、当社の規模に合わせてSaaSメニューを無理なく少しずつ増やし、DCの活性化につなげていきます。
──今年は、どのようなSaaS型サービスを投入する予定ですか。 梶本 近々、ソーシャル機能つきのクラウド型グループウェアを発売することを予定しています。海外メーカーが開発した製品なので、現在はローカライズを行っている段階です。
──グループウェアといえば、サイボウズが国内で圧倒的なシェアを握っています。競合他社との差異化をどう図っていきますか。 梶本 当社のグループウェアの特徴は、製品をOEMで販売パートナーに提供し、パートナーは自社商材として展開することができるという点にあります。サイボウズの製品は、販社は結局サイボウズの製品として売ることで終わってしまうケースが多いと思います。そうではなく、当社はパートナーが自社のブランドでグループウェアを販売し、その周辺でシステム構築やソフト開発の付加価値を提供することができる“種まき”の仕組みを用意しています。さらに、アジアでの独占販売権も取得しています。アジア各国でのパートナーの販売体制を活用して、中国や台湾、香港、タイなどで展開していくつもりです。
──直接販売も行いますか。 梶本 ユーザー企業の規模ごとに分けて、直販と間接販売の両方で展開します。大手企業には、当社がOEMで提供し、パートナー各社に販売していただく。中堅企業には、当社が直販でアプローチして自社で展開する、という構造を描いています。今後、グループウェアをビデオ会議と連携して、例えばデパートやモールで人の流れを解析し、情報をリアルタイムで共有するというビッグデータ分析に近い活用シーンも考えられます。
グループウェアは、直販、パートナー販売を合わせて、2年間でおよそ300社に導入することを目標に掲げています。
自前のDCで信頼性の高いSaaSを提供
──このところ、DCの利用構造が複雑化しつつあります。例えば、A社が建設・運営しているDCの一部をB社が自社DCとして利用し、そのスペースをさらにC社に提供するという「多重利用」が増えているようです。そうしたなかで、御社のように自前のDCをもつことのメリットをどのように捉えておられますか。 梶本 DCの多重利用は、例えば大型のマンションにもみられる現象だと思います。建設会社は、数年間のスパンで満室になると見込んで、規模の大きいマンションを建てる。だが、すぐにはすべての部屋を埋めることができないので、空いている部屋を一定の期間、他の事業者に提供する。そうした他社利用によって、自社の営業リソースで借り主を獲得するまでに、収入のロスを防ぐというパターンだと思います。
DCも、コスト効率化のために大型化が進んでおり、所有者が自社で行う営業活動だけでは、すぐにラックスペースを埋めることができないという問題に直面しています。そんな状況にあって、DCの利用構造が複雑化しているわけです。始まったばかりのトレンドですから、これから3~5年にわたって、DCの利用の仕方はもっと複雑な状況になると予測しています。
そんな状況にあって、なぜ当社は自前でDCを建設しているのかを説明したいと思います。
ITベンダーは自社でDC設備をもたなくても、他社センターのスペースを借りて、BCP(事業継続計画)などのDCサービスを提供することが可能になっていますが、それはリスクも伴うということに注意していただきたい。大型マンションのように、他の事業者にスペースを提供しているDC所有者が自らお客様を獲得してスペースを要求すれば、すでに借りているユーザーは、DCを出ていかなければならない可能性が発生するからです。当社は、そのリスクを防ぐために自社でDCをつくり、各種クラウドサービスを自信をもってお客様に提案します。
──梶本社長は昨年末の本紙インタビューで、今後の4~5年間もDCサービスの需要は衰えないとの見解を示されました。需要をものにするために、御社は今後もDCの増設に取り組んでいかれるのでしょうか。 梶本 おかげさまで、受注は順調に進んでいます。09年に完成した第2DCの第I期棟に加え、第II期棟の建設を計画しており、2013年度(14年3月期)中の稼働を目指しています。完成すれば、当社のDCリソースは合計で2900ラックの規模になります。投資は大変ですけれども、自前でDCを用意することを武器にして、DC/クラウド事業を伸ばしていきたいと考えています。
・FAVORITE TOOL モンブランの万年筆。会長の池田典義氏が外資系企業出身ということもあって、アイネットではサイン文化が根付いている。梶本社長はこの万年筆を使い、契約書に署名する。「ビジネスを伸ばし、もっともっと契約書にサインする機会を増やしたい」と笑顔をみせる。
眼光紙背 ~取材を終えて~
アイネットは、横浜・みなとみらい地区に本社を置く。オフィスの周辺には横浜ランドマークタワーや横浜美術館、クィーンズスクエア横浜など文化・ショッピング施設がひしめいており、昼間は、JR桜木町駅や横浜高速鉄道みなとみらい駅から出てくる人の流れが絶えない。
梶本繁昌社長は、センサを使って人の流れをデータとして把握するM2M(マシン・トゥ・マシン)や、それらの情報を分析してビジネスに活用するビッグデータに深い関心をもっている。今後、M2Mプラットフォームを開発するだけでなく、グループウェアとビデオ会議を連携した仕組みをつくりだそうとしている。例えばショッピングモールの客はどのような動きをして、何を購入するかといった情報を手に入れるための仕組みがそれだ。
人で溢れるオフィス周辺から刺激を受け、梶本社長は、M2M/ビッグデータの可能性を身をもって実感している。DCを活用して、新規ビジネスとして立ち上げていくつもりだ。(独)
プロフィール
梶本 繁昌
梶本 繁昌(かじもと しげまさ)
1959年11月、広島県生まれ。53歳。2002年4月、アイネットのソフトウエア事業部長、同年6月、取締役に就任。06年6月に取締役副社長を経て、08年4月、代表取締役社長に就任し、現在に至る。
会社紹介
横浜・みなとみらいに本社を置く独立系のシステムインテグレータ(SIer)。1971年に設立された。現在は、システム構築のほか、データセンター事業に力を入れている。2012年3月期の売上高は203億7400万円、営業利益は12億1400万円。従業員数は1416人。