「世界最高レベルの電子政府と電子自治体をオープンなクラウド技術で実現する」ことを目標に、2009年4月から活動を続けてきた産学官連携による任意団体、オープンガバメントクラウド・コンソーシアム(OGC)が、今年4月、一般社団法人となった。これを機に、オープンガバメント・コンソーシアム(略称はOGCのまま)に改称して、新たなミッションに取り組んでいる。ほぼ時を同じくして国の新たなIT戦略「世界最先端IT国家創造宣言」が打ち出されたが、OGCは従来の提言活動の枠を越えてどんな取り組みを進めるのか。会長を務める須藤修・東京大学大学院情報学環長・大学院学際情報学府長に話を聞いた。
社団法人化で事業の責任主体に
──OGCは、今年4月に一般社団法人化しましたが、これにはどんな意義があるのでしょうか。 須藤 以前のOGCは任意団体だったので、何かのプロジェクトを受注するときに、責任履行の保証がなかったわけです。法人格をきちんともつことで、事業の責任主体になることができる体制にしました。これは非常に大きいと考えています。
例えば、総務省の「ICT街づくり推進事業」で、会津若松市の提案が採択されましたが、OGCは、このプロジェクトの中心メンバーの一つであり、補助金などのお金の管理も責任をもってできるようになりました。従来、OGCのメンバーであるアクセンチュアが、会津若松市、会津大学などと連携し、スマートシティの実現による復興支援に取り組んできましたが、OGCという公益性をもつ法人が、そうした事業の受け皿として堂々と活動できるようになったということです。
厳密には、この会津若松市のプロジェクトは国の復興事業というくくりではありませんが、これを水平展開して、岩手、宮城、福島の復興を、スマートグリッド、スマートシティの実現によって支援したいと考えています。
一方で、東北の復興は重要なテーマですが、日本全国、さらにはグローバルなビジネスという視点でも事業展開を考えています。われわれが検討してきたスマートシティを実現するための公共インフラの共通クラウドプラットフォームなどを、国内やアジアに広く展開したいですね。
──当面は、スマートグリッド、スマートシティ関連の取り組みが中心になるのですか。 須藤 そうですね。ただし、将来的にはICTを利活用した新しい地域医療の実現なども重要なテーマになるでしょう。医療施設数の限界もありますので、在宅医療の比重が大きくなっていくのは間違いありません。ですが、今の状況では家族の負担が大き過ぎるという課題があります。さらには、独居高齢者が増えていて、そもそも患者が家族と同居することが困難なケースが多い。病院、ケアマネージャー、行政、家族などが、ネットワークを使って情報共有して、患者が必要なときに必要なサービス、ケアを受けられる仕組みをつくっていくべきです。全関係者の財務的・物理的な負担を軽減・効率化し、そのプロセスを可視化するには、ICTが不可欠だといえます。
幸い、OGCにはITの領域でも多方面をカバーするさまざまな企業が参加しています。当面は、メンバー間の協力・連携のもと、OGCとして国のプロジェクトを受託し、その成果を活用したビジネス案件が出てくれば、会員同士の事業コンソーシアムを仲介するといったことも考えられるでしょう。社会的意義があって、将来のビジネスの広がりが期待できるとしても、単独の事業として収益率が低ければ、本社の決裁が得られないケースもあるでしょうから、そういう場合にはOGCを受け皿に使ってもらうことができます。
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