バブル崩壊後の日本経済は、長期の景気低迷が未だに続き、「失われた20年」とも揶揄される。現政権は、ここから抜け出すための三つの重点政策「三本の矢」として、「財政政策」「金融政策」「成長戦略」を掲げ、成長戦略の柱にIT戦略を据えた。つまり、ITこそが、日本が経済先進国としての地位を保ち、成長を続けるためのキーになると位置づけたのだ。6月14日には、新たなIT戦略として、「世界最先端IT国家創造宣言」を閣議決定。KPI(重要業績評価指標)や工程表も定め、「日本をITで変える」ためのロードマップを示した。
この連載では、政府の新たなIT戦略で示された施策を実際に遂行する各府省庁の動きを、テーマごとに追う。新戦略では、個別の施策について、担当する府省庁、つまりは責任の所在を明確にし、結果を出すことを求めている。そこにはITベンダーにとってのビジネスチャンスがきっと生まれるはずだ。
成長戦略の柱はIT
まずは、「世界最先端IT国家創造宣言」の概略から押さえたい。基本的な理念は、世界最高水準のIT利活用社会を実現することで日本の閉塞感を打破し、経済を再生・成長させることだ。この理念の下、目指すべき社会の姿を「革新的な新産業・新サービスの創出と全産業の成長を促進する社会」「健康で安心して快適に生活できる、世界一安全で災害に強い社会」「公共サービスがワンストップで誰でもどこでもいつでも受けられる社会」の三つに定めた。これを実現するための個別の施策も掲げている(図参照)。
新戦略策定の実質的な事務局を務めた内閣官房情報通信技術総合戦略室は、「過去の国のIT関連施策は、統一した哲学がなかったり、各府省庁間の施策同士のつながりがみえにくいなどの課題があったことは確か」としている。そこで、「成果を出す」ことにこだわったスキームづくりを進めたのだ。(本多和幸)