「名刺の管理」というシンプルなクラウドサービスで頭角を現した。設立からおよそ7年の間、年商は対前年度比40%増で成長し続けている。差異化が難しそうな単純な機能のクラウドで、無数にライバル企業が存在するマーケットに割って入ることができた理由は、目先の利益を追求せず、たとえ赤字でもクオリティにこだわる断固とした姿勢にある。
テレビCM+クチコミで多くのユーザーを獲得
──名刺管理機能の法人向けクラウドサービス「Sansan」のユーザーが、1500社を超えました。2013年は1年間に約500社の新規ユーザーを獲得しており、これまでにないハイペースで成長しています。また、同様の機能を提供する個人向けクラウド「Eight」のユーザーは、50万人を突破。絶好調ですね。 寺田 確かに、この1~2年でユーザーが一気に増えています。でも、その実感があまりないのです。テレビCMの放映で知名度を高めたことが影響しているとは思いますが、正直に言うと、「なぜ急に?」という気持ちで、急成長の理由を分析できていません(笑)。私たちのサービスを気に入ってくれたユーザーが、クチコミで広めてくれているのか、「指名買い」が増えてきました。
──間接販売も行っているのですか。 寺田 直販も間接販売も、どちらも手がけています。直接販売しかしていないイメージをもつ人が多いのですが、イメージワークスやジェイ エスキューブなどのパートナーに取り扱ってもらっています。
──名刺管理ツールは、Sansanの設立前から無数に存在していました。後発にもかかわらず、ユーザーを増やすことができている要因は、どこにあるとみておられますか。 寺田 使いやすさでしょう。私たちのツールは、ユーザーの満足度を高めるために、相当な手間をかけています。
一例として、名刺の情報をテキストデータ化するための仕組みを紹介します。
他社の名刺管理ツールは、スマートデバイスのカメラやスキャナで読み取った名刺データを、OCR(光学文字認識)技術を活用してアプリケーションソフトが自動的にテキストデータ化しますよね。ただ、OCR技術が進化したとはいえ、すべての情報を100%、正確にデータ化するのは不可能。結局、他社ツールのユーザーは、取り込んだデータの内容に間違いがないかどうかを最終的にチェックしているはずです。これは大変な作業で、大きな負担になります。
私たちのツールは、そんな確認作業は必要ありません。ユーザーは、名刺データを取り込むだけで、正確な名刺データベースを手に入れることができます。Sansanの場合、ユーザーが取り込んだ名刺データは、当社のデータセンターに自動送信され、OCRソフトで自動的にテキスト化します。そして、ここからが他社とは違います。国内外にある複数のオペレーティングセンターのスタッフが、内容を確認・修正したうえでユーザーに届けます。この作業は、正確なデータにするために、一枚の名刺の確認を二人のスタッフが行います。ダブルチェックしているわけです。入力・確認作業に多少の時間をいただきますが、戻したときのデータは正確なので、すぐに利用できます。
これは、使いやすさを追求している一つの例に過ぎません。私たちは、たとえ時間やお金を使っても、ユーザーに最高品質のデータを利用してもらえるよう努力しています。こうした取り組みが評価されているのかもしれません。
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