グローバル市場では自社パッケージを訴求
──顧客や案件の数を増やすための具体的な戦略を教えてください。 石田 例えば日系企業の海外拠点向けの2層ERPの需要などはまだまだ旺盛だと考えていますので、その掘り起こしを重視しています。スピーディなシステム導入が求められる領域でもありますので、クラウド商材との親和性も高い市場です。
──企業の海外拠点向けの2層ERPとなると、「MCFrame」や「A.S.I.A.」は、例えばSAPのクラウドERP「Business ByDesign」などと競合しませんか。 石田 当社が強みをもつ製造業分野では、日系企業の進出先の中心はASEAN地域です。当社が「Business ByDesign」を扱うかどうかは検討中ですが、ASEAN地域にはNECが展開することになっていますので、「MCFrame」や「A.S.I.A.」とは確かに競合します。しかし、こと日系メーカーの海外拠点に限っては、「Business ByDesign」がユーザーのニーズに合っているとは思いません。
──グローバルで訴求するのは、自社パッケージが中心になるということですね。 石田 そうです。もちろん、海外拠点で日本国内と同様の管理レベルを求めるのが現実的ではないというのはユーザーにも理解されているでしょう。しかし、日本の製造業には、ものづくりを行いながらプロセスを徐々に改善していくことで固有の製造ノウハウを蓄積していくという共通の特徴があります。工場をつくったら、働く現地の人には決められたことをやらせるだけで、現場からの改善は求めない欧米流のマネジメントとは決定的に違います。ですから、日系メーカーに提案するパッケージは、2層目の軽いERPであっても、その思想を反映できるものでなければなりません。
「MCFrame」は、当社が長年日本の製造業にITシステムを提供してきて獲得したノウハウを注入していますので、まさにそうしたニーズに応えられるソフトウェアだと自負しています。
また、原材料を加工している拠点、中間組み立ての拠点、最終組み立て拠点、販売拠点など、それぞれをバラバラではなく、横串を通してみることができるのも「MCFrame」の利点です。グローバルでサプライチェーンを統合的にコントロールし、意思決定者に戦略を考える材料となる情報を提供できます。他ベンダーの製品には、拠点ごとに完結してしまっているERPも多いですから。
安易に規模の拡大は求めない
──お話をうかがっていると、クラウドへの対応も含めて、やはり自社パッケージへの注力が中心施策という印象をもってしまうのですが……。 石田 当社の問題意識は、日本の製造業が今後どのようにグローバルで競争力を発揮していけるかということに尽きます。そして、そのためにお客様に必要なものを揃えて、適正に一体化する、つまり「エンジニアリング」をするというのが基本的なスタンスなんです。極端にいえば、商材はお客様のニーズに合ってさえいれば何でもいいわけで、例えば「MCFrame」も、そうした商材がなかったからつくっただけです。
──エンジニアリングというのは、SIとは違うのでしょうか。 石田 お客様にいわれた通りにシステムをつくるだけではエンジニアリングとはいえません。われわれのノウハウをもとに、お客様が求めることを実現するための適切な助言・提案ができることが重要です。また、お客様の社内には、現場、マネジメント層、経営層という三つの層があって、それぞれの要望が一致しないことが往々にしてあります。その交通整理をして全体最適を図り、ベストフィットのソリューションに仕上げるのも、エンジニアリングの腕のみせどころです。
──東証1部上場を機に、株主のプレッシャーも強くなるのでは？ 6月には代表取締役会長に就任されますが、舵取りに変化はありますか。 石田 社長を6年やりましたので、人事については、上場を機に人心一新を図ったということです。
経営方針としては、安易に規模の拡大を求めることはしません。サービスの質を向上させることを優先します。ただ、成長のための施策として、パートナーとの連携強化は重要視しています。「MCFrame」の海外現地ベンダーのパートナー発掘、「MCFrame」の他社連携ソリューションの拡大などは一つの方法でしょう。また、当社に不足している部分を補う関係になり得る企業のM＆Aも、積極的に検討します。
日本の製造業は、経営判断が遅く国際的な競争力を削がれていると批判されることもありますが、私は何も心配していません。次から次に発生する課題を改善につなげていくスピードは、結構速い。皆さんが思っている以上に、日本の製造業の現場は進化し、競争力をつけており、それを支えるのがITの力です。彼らを顧客にしていることは、本当に幸せなことだと実感しています。
‘日本の製造業がグローバルで競争力を発揮していくためにお客様に必要なものを揃えて、適正に一体化する、つまり「エンジニアリング」をするのが基本的なスタンスなんです。’＜“KEY PERSON”の愛用品＞腕になじむ国産高級ウオッチ 国産の高級腕時計を長年愛用していたが、傷んできて、後継機を購入。時刻が狂わず、丈夫で、腕にしっくりなじむところがお気に入りのポイントだという。現在使っているモデルも、「長く使いたい」そうだ。
眼光紙背 ～取材を終えて～
製造業を中心に、中小企業の海外進出が加速しているなかで、ERPの需要は拡大している。しかし、海外拠点向けの基幹システムについていえば、国産ベンダーは分が悪い。そんな状況のなかで、B-EN-Gは「MCFrame」を前面に打ち出して存在感を示している。ソフトベンダー色を強めた事業展開に舵を切るのかと思いきや、石田社長の答えは「否」だった。
製造業分野で長年仕事をしてきたノウハウには誇りをもっており、その結晶である「MCFrame」の製品力にも自信をもっている。しかし、「当社の事業の本質はエンジニアリングであって、パッケージソフトを売ることではない」と言い切る姿勢に、単なるITベンダーとは違うぞ、というプライドがうかがえた。
石田社長は6月から代表取締役会長を務めることになる。後任の大澤正典新社長は、経常利益を2014年3月期の2倍となる10億円に早期に乗せたいという目標を掲げるが、二人のタッグがどんな化学反応を起こすのか、注目していきたい。（霞）
プロフィール
石田 壽典
石田 壽典（いしだ としのり）
1950年6月生まれの63歳。福岡市出身。76年、九州大学大学院工学研究科修了。同年4月、東洋エンジニアリング入社。1999年、東洋ビジネスエンジニアリングに転じる。2000年、取締役。経営統括本部長、ビジネスコンサルティング部長などを歴任し、2005年に代表取締役 専務取締役。2008年4月、代表取締役 取締役社長に就任。今年6月、代表取締役 取締役会長に就任する予定。
会社紹介
大規模プラントの設計や機器調達、建設などを手がける三井系のエンジニアリング企業である東洋エンジニアリングの産業システム事業本部が前身。1991年、日本初のSAPパートナーとしてERPビジネスを開始した。1996年には、自社パッケージ「MCFrame」をリリース。1999年、東洋ビジネスエンジニアリング（B-EN-G）として開業。2007年、海外拠点会計パッケージ「A.S.I.A.」事業を統合。2013年4月、東京証券取引所市場第2部に株式上場。2014年4月、東証第1部に株式上場。
