東洋ビジネスエンジニアリング(B-EN-G、石田壽典社長)は、2014年3月期の決算で、前期比増収・増益、4期連続の増益を果たした。また、6月20日付で石田社長(代表取締役・取締役社長)が代表取締役・取締役会長に、大澤正典・代表取締役・専務取締役が代表取締役・取締役社長に就任することも明らかにした。今年4月4日には東証1部に上場し、勢いに乗る同社だが、このところ目立つのが、「グローバル」と「クラウド」への傾注だ。今回の経営体制一新により、その姿勢はより鮮明になった。新たな一手が、さらなる成長への礎になるのか──。(本多和幸、真鍋武)
自社パッケージの伸びが顕著

石田壽典
社長 B-EN-Gは、生産管理、原価管理に強く、近年は製造業分野で強固な顧客基盤をもつ自社開発のERP「MCFrame」をはじめとするパッケージソフトの売り上げの伸びが著しい。製造業を中心とする中堅・中小企業のグローバル化に伴い、ERP需要は成長に転じているが、B-EN-Gは「MCFrame」を武器にして、国産ベンダーとしては例外的ともいえる健闘をみせている。一方で、日本で初めてSAPパートナーになった歴史のあるSI事業の存在感もいまだ健在で、SAP関連案件の売り上げは、全体の約5割を占める。
2014年3月期の決算は、売上高が前期比10.9%増の126億3500万円、経常利益が同46.3%増の5億1700万円となった。売上高はピーク時の140億円規模には及ばないが、リーマン・ショックの影響で、2010年3月期に104億5500万円まで落ち込んだことを考えれば、順調に回復しているといえそうだ。
成長を支えている最も大きな要因は、やはり自社パッケージソフトを販売する「プロダクト事業」の伸びだ。2014年3月期は、前期比17.2%増の40億8100万円の売り上げを記録し、主力商材である「MCFrame」のライセンス売上高も、前期比8.4%増、受注高は同16.8%増という水準。4期連続で増加した。石田社長は、「受注のタイミングの問題もあるので売上高の伸びは8.4%だったが、成長率は2ケタをキープしているといっていい」と手応えを語る。SAP製品を中心としたSI事業である「ソリューション事業」も、前期比で売上高は増えた。しかし、全社の成長という意味では、より伸びしろのあるプロダクト事業が中心になることは間違いない。
それを裏づける動きとして、現在、プロダクト事業では、さらに別の軸で事業を成長させるための施策が進んでいる。そのキーワードが、「グローバル」と「クラウド」だ。
クラウドで儲けるために

大澤正典
代表取締役
専務取締役 具体的には、製造業向けのクライアント/サーバー型ERP製品「MCFrame CS」をコンパクトにした海外拠点向け製品「MCFrame CS Start-Up Edition」をリリースし、そのSaaS版である「MCFrame cloud/China」も、同社の中国法人である畢恩吉商務信息系統工程(上海)=B-EN-G上海を通じて販売している。また、海外対応会計パッケージ「A.S.I.A.」を、インターネットイニシアティブのクラウドプラットフォーム「IIJ GIO」上で提供する「A.S.I.A. GP SaaS on IIJ GIO」も、昨年末にサービス・インした。今年5月からは、グローバルな事業基盤をもつ会計事務所と協業し、「A.S.I.A. GP SaaS on IIJ GIO」に海外拠点での会計業務アウトソーシングサービスを組み合わせた「GLASIAOUS」というサービスも始める。
製造業分野の日系中堅・中小企業のグローバル化を考えれば、成長著しいプロダクト事業のなかでも、グローバル市場をとくに伸びしろが大きいと判断して施策を打つのは自然なことだ。そして、B-EN-Gはそこを自社パッケージソフトを中心に攻めようとしている。
6月に新社長に就任する大澤代表取締役・専務取締役は、昨年秋に海外事業担当役員にも就いている。大澤新社長の就任は、グローバルへの注力をさらに加速させることになりそうだ。大澤代表取締役・専務取締役は、社長就任後の自らのミッションについて、「経常利益を2ケタ(10億円以上)にもっていくかたちを早く見つけたい」としている。さらに、「クラウド化の動きに多くのSIerが苦しんでいる。儲かるのは基盤の胴元とアプリケーションのベンダーだけ」とも話しており、ここに具体的な戦略のヒントがある。
ソリューション事業で扱う商材の提供元であるSAPやオラクルは、まさに「基盤の胴元」で、しかも「アプリケーションベンダー」だが、B-EN-Gは、まず自社ERPのクラウド化を進めて、競合する可能性のある他社製品については取り扱いを慎重に検討する方針だ。石田社長は、注目しているSAP商材として、SaaSの調達ソリューションなどを提供するAribaや、人材管理のSuccessFactorsの製品を挙げる。これは、とくにグローバル市場では、基幹システム部分を自社商材でしっかり押さえて収益を確保したいという意思の現れとみることもできる。「MCFrame cloud/China」を提供するB-EN-G上海の佐佐木淳シニアコンサルタントも、「あくまで事業ミッションとしているのは、『MCFrame』や『A.S.I.A. GP』などの自社製品のライセンス販売だ」と語る。中国法人も売り上げの半分はSAPビジネスが占めているが、新規獲得のための営業はしていないという。
自社製品を核にグローバル市場をクラウドで攻めるという決断が、どう実を結ぶのか。成功すれば、多くの国産ベンダーにとって示唆に富む事例となりそうだ。