営業のエースに新規開拓を担当させる
──御社が有力販社になっておられる日本IBMは、最近、ハードウェア離れが進んでいるという印象を受けます。日本IBMの事業方針について、どのようにお考えですか。 菊川 当社は、IBM製品だけではなく、複数のメーカーの構築を手がけていることを大きな特徴としています。日本IBMのハードウェア離れが進んで、つき合いにくくなったら、お客様にはほかのメーカーの製品を提案すればいいだけの話、と私は考えています。
SIerは、特定のメーカーの方針にべったりになるのではなく、どんな製品を販売するかを自社でコントロールすることが大切です。KELは、そのコントロールをしっかり行っているので、日本IBMの方針についてとくに心配はしていません。むしろ、商材があり過ぎるといえるくらい、数多くのメーカーの製品を取り扱っています。この強みを生かして、提案に力を注ぎます。
──先ほど、「原点に戻る」という言葉をうかがいました。その原点とは……。 菊川 ここ数年、多くのSIerがアプリケーション開発などの上位レイヤに舵を切って、当社のようなインフラ構築を得意とするプレーヤーがだいぶ減ってきています。私はこの流れをチャンスと捉えて、営業力を強化し、お客様に近い存在になって市場を攻めていきたい。
──具体的には、どんな施策を講じようとしておられますか。 菊川 今、考えているのは、例えば既存顧客に深く入り込んでいる営業のエースに、新規開拓の案件を担当させることです。本人は、「なんでまたゼロから?」と、最初はイヤがるかもしれませんが、会社として掲げている「原点に戻る」ことを現場でも実践します。社員にいろいろな経験をさせて、視野を広げることを期待し、5~10年後の会社を引っ張るリーダーを育てたいと考えています。
──課題は、お客様に密着して、いかにインフラ構築を御社に発注させるかということだと思います。菊川社長も“営業”に出られますか。 菊川 社長の営業現場は、ゴルフ場ですね。当社は30年ほど前から全国でゴルフコンペを開いて、先日も、東京で開催しました。そのとき、およそ100人の方々の参加を得ました。私は、ボールを打つ合間を縫って、お客様と話をして、KELの強みを説くとともに、当社のファンになっていただくよう、信頼関係の構築に努めました。
「KELらしさを重視しよう」と社員に伝える
──御社が取り扱っているメーカーが本社を置く米国への「現地ツアー」にも取り組んでおられますね。 菊川 メーカーなら、こうした現地見学会をよく実施すると思うのですが、当社のように、SIerが企画して、しかも1社ではなく、複数のメーカーを訪れるという意味では、珍しい取り組みだと自負しています。お客様の評判がいいので、これからも実施します。
ツアーなどでお客様からよく聞くのは、「クラウドへの関心が高いが、自社でどのように活用すればメリットが出るかについて、イメージが湧かない」というお声です。そういうお客様に対して、当社は、コスト削減につながるなどの活用シーンをわかりやすく説明し、地道な提案活動によって、案件の獲得に結びつけようとしています。
──御社はこの4月、タイに現地法人を設立されました。海外や国内地方での事業展開について聞かせてください。 菊川 タイは、以前から進出している中国と同じように、多くの製造業のお客様が工場やオフィスを設けておられ、インフラ構築や運用サービスの需要が旺盛です。現在、インドなどにも人材を送り出しているので、現地パートナーの販売網を活用しながら、海外市場の開拓に取り組みたい。
海外だけでなく地方のビジネスも順調です。(広島県に本社を置く自動車メーカーの)マツダが元気を取り戻したおかげで、2年前に開設した広島拠点がここにきて、黒字に転じるようになっています。
──最後に、菊川社長が社員に向けて発信しておられるメッセージについてうかがいます。 菊川 私は、お客様に密着し、「KELらしさを重視しよう」ということを強調しています。
当社は(単に製品を売る販売代理店ではないという意味で)、日本IBMのBP(ビジネスパートナー)とは違う。IBMサーバーに他社のストレージを組み合わせるなど、ちょっと変わった提案に力を入れて、強いブランドを築いてきました。これこそが、当社のDNAです。社員には、こうした独自性を大切にして、「KEL」を前面に打ち出した提案をしてもらい、お客様からインフラ構築をどんどん受注したいと考えています。

‘当社は、日本IBMのBPとは違う。IBMサーバーに他社のストレージを組み合わせるなど、独自性の強い提案に力を入れてきました。これこそがKELのDNAです。’<“KEY PERSON”の愛用品>ウォーターマンのボールペン 「サッカーと縁が深い」という菊川泰宏社長。ボールペンは、2002年日韓ワールドカップのとき、会場にITを導入するプロジェクトを率いた実績が評価され、会社から贈られたもの。「ずっと愛用している」そうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
兼松エレクトロニクスは、伝統的に利益を重視するSIerだ。2014年3月期の営業利益は前期比13.5%増の54億円(営業利益率=10%弱)だったことが、その裏づけになる。新社長の菊川泰宏氏は、「今後も、利益を追求する」として、方針を変えないことを明らかにしている。
その一方で、インフラ構築/仮想化ビジネスの深耕を図るために、営業部隊を強化したり、海外での体制づくりに力を入れたりなど、成長に向けた投資も重視する考えだ。案件ごとに付加価値を明確にし、利益率を高めることによって、投資を回収することが、「利益追求」を実現するうえでのカギを握る。
付加価値をつけるために、菊川社長は「ビッグデータを活用したイノベーション創出」を掲げている。仮想基盤を生かし、兼松エレクトロニクスが構築に強い分析ツールを提案し、客先の事業展開を支援することで案件を獲得する戦略だ。社長に就任してどうかの問いには、「なにより、責任が重い」と苦笑交じりの答えが返ってきた。(独)
プロフィール
菊川 泰宏
菊川 泰宏(きくかわ やすひろ)
1957年生まれ。熊本県熊本市出身。日本通信工業(現NECインフロンティア)を経て、1987年、兼松エレクトロニクスに入社。サーバーなど、システム製品の事業に携わる。上席執行役員東京システム営業部門担当兼ビジネス開発本部長や常務取締役を歴任して、今年4月、代表取締役社長に就任した。
会社紹介
1968年設立の商社系システムインテグレータ(SIer)。サービス業や製造業の大・中堅企業に対して、サーバーやネットワークなどインフラの構築を手がける。2014年3月期の連結売上高は639億円と、前期比41.8%増。従業員数は1686人(2014年3月末時点)。東京・京橋に本社を構える。東京証券取引所市場第1部に上場。