対日オフショア開発は低調、ASEANに光明
──三つの重点分野以外に、NEC(中国)の重要なビジネスとして、オフショア開発があります。パートナーを含めて、4000人ほどの開発者が従事しておられる。オフショア開発を手がける日系企業に取材すると、あまり景気のいい話を聞きませんが、NEC(中国)はいかがですか。 日下 日本はSEが不足するだろうから、その影響で今年は中国にソフト開発を外注するケースが増えると読んでいましたが、期待が外れました。日本の開発案件は日本のなかで完結しようとする傾向が強まっているうえに、急速に進行する元高が追い打ちをかけています。「情報漏えいが心配だから中国には発注したくない」という心理的な壁も大きい。悲観的すぎるかもしれませんが、日本企業の中国へのオフショア開発事業は、復活するとは考えていません。スタッフを減らす可能性がありますし、北京や上海ではなく西安や成都、済南といった地方都市の拠点にリソースをシフトすることも考えなければならない。
──やはり厳しいのですね……。 日下 ただ、悪い話だけではない。日本からの仕事は減っていますが、逆に増えているのが東南アジアからの案件です。シンガポールやマレーシアから受注するケースが増えています。なぜかというと、言葉の問題があるからです。
東南アジア各国では、SIビジネスが増えていますが、ソフトの仕様をつくっている開発者には、中国人が多い。当然、中国語を話しますから、円滑なコミュニケーションを取るためには、ベトナムやフィリピンではなく、中国を発注先に選ぶのです。
オフショア開発は、日本向けが減っていき、東南アジア向けが増えていく。それで横ばいになるかどうかはこれから次第ですが、いずれにしてもNEC(中国)のオフショア開発の売上高は、50億~60億円くらいで全体の10%に満たない。オフショア開発需要の浮き沈みが経営を大きく揺さぶることはありません。
市場開拓の鍵はローカル企業との協業
──日系IT企業の中国ビジネスが思うように伸びていません。その理由はいくつかあると思いますが、政治上の摩擦は無関係ではないでしょう。先月10日、日中首脳会談がおよそ3年ぶりに実現し、再び協力関係を結ぶ兆しがみえてきました。経済への影響をどうみておられますか。 日下 お互いの国のトップ同士が握手したことは大きな一歩です。ただ、だからといって、日本と中国の関係が一気に回復することはないでしょう。日系企業向けの中国ビジネスは、厳しい環境が続くことを覚悟しておかなければなりません。
なので、NEC(中国)が力を入れるのは、ローカル企業をターゲットにしたビジネスになります。今年度は、ローカル企業向けビジネスが拡大し、日系企業向けビジネスが縮小しているので、全体の70%程度をローカル企業が占める見込みです。しかし、中国のIT市場の97%程度がローカルで成り立っていることを考慮すれば、売上高の30%も日系企業に依存しているようではいけない。ほぼ100%、ローカル企業・団体から収益を稼ぐようにならなければならないと思っています。
──日下総裁は、海外事業の活動歴が長くてアジア市場での経験も豊富です。そのなかでおよそ1年半の間、中国ビジネスを統括してこられました。改めておたずねします。日下総裁が考えておられる中国攻略法とはどのようなものでしょうか。 日下 キーは間違いなくローカル企業とのパートナーシップです。中国に比べて、日本が優位にある技術や製品はたくさんあります。ただ、すぐれているから売れるとは限りません。製品やサービスを流通させてユーザーに届けるためには、NEC(中国)だけでなくローカル企業が儲かる仕組みを提供することがとても大切。なので、私たちの戦略的パートナーはほぼすべてローカル企業です。この1年、各地域でこうしたパートナーを増やす活動に力を入れてきましたが、中国は広いので、まだまだ足りない。100社を超えるくらいに増やしていきたいと思っています。
ローカルのユーザーやIT企業に、NEC(中国)と手を組まないと不利になると思わせるくらいの圧倒的な技術力を提供し続け、それを盗まれないような仕組みをつくり、ローカルパートナーとともに儲かる体制も構築する。それが中国IT市場を攻略するうえの重点戦略だと私は捉えています。

‘中国IT市場の97%程度がローカルで成り立っていることを考慮すれば、売上高の30%も日系企業に依存しているようではいけない。ほぼ100%、ローカル企業・団体から得るようにならなければならないと思っています’
眼光紙背 ~取材を終えて~
日中関係の大きな改善は短期的には進展しないとみる日下総裁。だが、その表情に陰りはない。NEC(中国)にとって、最大のターゲットはローカル企業。日系企業には依存しない姿勢を打ち出している。
一方、中国の日系IT企業の多くは、いまだ顧客の8~9割を日系企業が占めている。日本からの対中投資が回復しないのであれば、ローカル市場の開拓は必須だ。とはいえ、日系IT企業の主要商材は、グローバルベンダーのERPやCRMであることが多く、ローカル市場にいる無数の競合に打ち勝つことは難しい。
NEC(中国)は、他社の追随を許さぬ最先端の技術を中国戦略の中核に据えた。技術を盗まれないようにする策もめぐらしている。日系IT企業がローカル企業を開拓するには、販路を担ってくれる地場SIerに、喉から手が出るほど欲しいと感じさせるだけの、魅力的な商材を提供することが不可欠。そのためには、中国市場の特異性を深く理解し、傑出した商材を生み出すだけの投資・企業体力が求められる。(道)
プロフィール
日下 清文
日下清文(くさか きよふみ)
1957年10月9日生まれ、東京都出身。80年3月、慶應義塾大学法学部卒業。同年4月、NEC入社。2001年、NEC(タイ)社長。07年、NECに戻り、海外ソリューション推進本部長に就任。11年、NEC執行役員。12年、NEC Asia Pacific CEO。13年4月、NEC(中国)総裁に就任した。
会社紹介
NEC(中国)は、中華圏(中国本土、香港、台湾)にあるNECのグループ会社のビジネスを統括している。事業傘下は13社あり、従業員数は約3800人。2013年度(本社会計の14年3月期)の売上高は約700億円で、日系企業向けが約60%、中国の政府機関や企業向けが40%ほど。ITを活用した次世代都市「スマートシティ」分野を重点領域としており、2015年度(同16年3月期)に年商1000億円の到達を目指している。