全方位でパートナービジネスを拡大
──やはりモノで差異化するのは難しいのですね。 いや、誤解してほしくないのですが、モノも変わらずに重視していきますよ。例えば、当社の「PowerEdge R920」という高機能ラックサーバーは、今年5月にSAPインメモリDB「HANA」のインフラとして、x86サーバーでは最速のパフォーマンスを記録しました。デルの製品は、アーキテクチャの柔軟性をもちながら、性能にもすぐれていて、さらにデバイスはすべて事前に検証済みで、導入効果の確からしさを担保できるという強さがあります。これが、コスト勝負のメーカーとは違う価値です。
──トータルソリューションの提供というのは、大企業中心のビジネスになりますよね。従来の主力事業は、ダイレクトモデルによるSMB(中堅・中小企業)向けのモノ売りが中心だと理解していますが、近年はパートナービジネスの拡大を掲げておられます。 その方針は変わりません。というよりも、さらに加速させます。
──そうしたパートナーにも「コト」起点の提案を求めるのでしょうか。それはなかなか難しいような気もしますが……。 そんなことはありませんよ。ITの販売をされているリセラーは、多様な商材を取り扱っておられますから、当社製品にさまざまな付加価値を与えてくれる存在です。一方で当社にも、PCやサーバーだけでなく、エンジニアリングワークステーションやVDIなど、なかなか宣伝が足りなくて認知していただけていないモノもたくさんあります。パートナーがお客様にご提案されるコトに対して、当社のモノがメリットがあることをご説明して、お客様も含め、Win-Win-Winの関係を確立したいと考えています。
──具体的には? アイデアの段階ですが、われわれの直販における資産をパートナーと共有する構想があります。何十万というお客様の登録情報が当社にはあり、一日あたり万単位でカスタマーセンターにコンタクトがあります。IT業界広しといえども、これだけの規模でプリセールスもポストセールスも含めて、お客様に直接アクセスできている企業はないと思います。このチャネルをパートナーと一緒に活用していく可能性を模索しています。現時点で申し上げられるのはこれくらいです(笑)。製品もツールも揃っていますから。1年、2年くらいでは目にみえる成果を出したいですね。

‘できるだけ早くレガシーシステムの負担を収束させて、お客様の人、モノ、カネ、時間という資源を解放し、これをクラウドネイティブな世界に投入してもらう’<“KEY PERSON”の愛用品>尊敬する上司からの贈り物 日本IBMで要職を勤め上げた時に上司から贈られたカフリンクスは、一種の“勲章”だ。「苦しい時ほど下を向かず、明るく楽しく前向きに」という上司の言葉とともに、いまでも心の支えになっている。
眼光紙背 ~取材を終えて~
インタビューしたのは社長就任から1か月しか経っていない9月の初旬だったが、デルの強みや可能性についてたずねると、淀みなく、次から次へと言葉が出てくる。グローバル大手のベンダーでキャリアを積んできたこともあってか、日本のIT市場の現状に対する危機感は強いのだろう。「ビジネスのイノベーションに貢献するITを提案できなければ、日本企業の競争力がどんどん落ちていってしまう」という課題を重く受け止めつつも、デルがその解決に貢献できるポートフォリオを備えていることを入社後に再認識し、非常にエキサイトしているという印象を受けた。
とはいえ、トータルソリューションベンダーへの転換も、パートナービジネスの拡大も、国内ではまだまだ途上の段階。「つまずいて転んでしまうかもしれないが、それでも前に進む」と、不退転の決意を示す。(霞)
プロフィール
平手 智行
平手 智行(ひらて ともゆき)
1961年2月生まれの54歳。横浜市出身。87年、日本IBMに入社。アジア太平洋地区経営企画、米IBM戦略部門を経て、2006年、日本IBM執行役員と米IBMバイスプレジデントに就任。国内では通信、メディア、流通、公益などの業種別事業やサービス事業を担当した。11年末に退職し、米ベライゾンのエリアバイスプレジデント、ベライゾンジャパン社長に転身。15年8月、米デル バイスプレジデント兼デル代表取締役社長に就任。
会社紹介
親会社の米デルは1984年に設立。パソコンの開発・販売からスタートし、その後、主にエンタープライズIT製品・サービスの自社開発と企業買収を通じて徐々に拡大。大手ハードメーカーに成長した。近年はソリューションプロバイダへの転換を掲げ、ソフトウェアやITサービスでも豊富な製品・サービス群を揃えている。2013年に投資会社と共同で株式を買い取り、非公開化した。日本法人の設立は1989年。