──座右の書として『坂の上の雲』を挙げておられますが(17面参照)、明治維新の成功の要因が、人材育成と通じるものがあるからでしょうか。 私は、人材育成なしに企業の成長はあり得ないと考えています。日常の業務に追われて、つい忘れそうになったときに、ふと『坂の上の雲』を書棚から取り出して、明治維新後の先人たちがいかに人材育成に力を入れていたかを思い起こし、その大切さを肝に銘じています。
世界情勢が大きく変化するなか、日本はギリギリのところで開国し、西欧列強を猛追しましたが、それって、つまり封建的な風土から、ある日突然、近代国家の価値観に置き換わったわけですよね。規模感こそ違いますが、ITの世界も「ある日突然」、昨日までの常識が、明日の非常識になることを繰り返してきました。恐らく、これからもそうなるでしょう。そのとき、新しい価値観を受け入れ、自分たちを変えていけるかどうかは、ひとえに日頃からの人材育成にかかっているのです。
──重点施策に挙げておられる地域の新しいビジネス創出は、どれくらいの規模感になりそうですか。 直近の売上高は2500億円あまりで、できれば向こう5年で営業利益率7%程度、売上高3000億円を目指したいところではあります。しかし、売り上げばかり追求するというよりも、なんとか利益率を落とさずに、今の地域を中心とした新ビジネスの売り上げ約150億円を向こう5年で倍増させ、次の時代つながるような、確固たる成長の道筋をつけることをより重視したいですね。
<“KEY PERSON”の愛用品>成功のカギは人材育成にあり 「企業の成長は人材育成なしに成し得ない」と話す杉山社長の“座右の書”が『坂の上の雲』(司馬遼太郎著)。明治維新の成功のカギを握ったのが人材育成であり、同書にも詳しく書かれている。お気に入りの水性ボールペンも添えてもらった。

眼光紙背 ~取材を終えて~
人材育成をことさら重視する杉山社長。技術者には、年間25日相当を新技術の学習・習得時間に充てるよう指導している。うち10日は講習で、15日は自由学習。講習会は会社側で準備したカリキュラムを受講する仕組みだが、日常の業務に追われてしまうSEが多く、「10日の講習会のうち平均7日の受講にとどまっている」と、肩を落とす。
変化への適応力は、日頃の技術習得のレベルに大きく左右される。名著『坂の上の雲』に描かれている明治維新後を例に挙げ、「国内外の動向をしっかり見据えた技術の研鑽があってこそ、世の中の大きな動きに適応できる」と話す。
座学だけでなく、地域でイノベーションを起こそうとしている人たちのなかに入り込んで、ともに学ぶことも大切だ。こうした動きができるSEが「2割から4割、6割へと増えていけばしめたもの。失敗を恐れず取り組んでほしい」と、全国のSEを鼓舞する。(寶)
プロフィール
杉山 清
杉山 清(すぎやま きよし)
1959年、茨城県生まれ。83年、東京理科大学理工学部卒業。同年、NEC入社。08年、官公ソリューション事業本部第一官公システム事業部長。12年、公共・医療ソリューション事業本部副事業本部長。13年、理事。14年、NECソリューションイノベータ代表取締役執行役員専務。2016年6月21日、代表取締役執行役員社長就任。
会社紹介
NECソリューションイノベータの昨年度(2016年3月期)単体売上高は2500億円あまり。従業員数は約1万2000人。うち首都圏以外の地域に勤務するSEは約4000人。クラウド型のサービスビジネスや地域を軸とした新しいタイプのビジネス規模は直近で150億円程度だが、これを向こう5年で倍増させていく。