「攻めの保守」で信頼を醸成
──「攻めの保守」によって顧客との信頼関係を深めるわけですね。これをグローバル規模で徹底していくと。 そうです。大型受注を獲得できた、新しい技術を駆使して他社リプレースを果たした、新しい商材開発に成功した――。どれも華々しく、うれしいことですが、顧客との信頼関係を深めていくには「攻めの保守」こそ大切にしたい。
時間の経過にともない、担当者が変わったり、記憶が薄れたりして、どうしてもマニュアルに書かれていることしか残らなくなってしまうのですね。障害を回避するために最新の自動化技術を使うとか、さまざまな改善策や回避ルートを開発していかなければならないし、追求しなければならない領域は無限に広がっています。これに失敗することが大きなリスクにつながってしまいます。
──国内やアジアのビジネスの展望はいかがでしょうか。 国内は、リマーケティングの効果がしっかり現れています。リマーケティングとは成熟度が高まっている市場を活性化させる取り組みです。「更改貧乏」なんて言われますが、金融や公共の大きなシステムでは、ライフサイクルが長いこともあり、前回の更改時期に比べて、ハードやソフトが安くなっていることから、同じようなものをつくっていては、どんどんと価格が下がってしまいます。そこで、新しい提案をして付加価値を高めたり、ソフト開発の自動化や部品の再利用でコストを下げて利益を増やす努力が実際の数字にも出てきています。
中国とASEANは、短期的な収益を求めるのではなく、長期スパンで捉えており、そうした意味で着実に関係を深めることができています。
──今、「グローバル・セカンド・ステージ」を快走中ですが、次の「グローバル・サード・ステージ」はどのようなものになるでしょうか。 まだ固まっていませんが、今年5月頃には、次のステージの展望を示せればいいと思っています。
国や団体、企業、スポーツ、芸術、宗教に至るまで、ITがより深く浸透しています。裏を返せば、あらゆる方面の動きが、ことごとくITビジネスに影響を与えるということです。広い視野をもって、さまざまな動きを観察し、ビジネスにつなげていくことが、より重要になってきます。さらには、繰り返しになってしまいますが、海外ビジネスが拡大すればするほど、世界情勢の影響を受けやすくなりますし、同時にSIは国や地域に密着したサービス業です。どのステージに進んでも、顧客との信頼関係、クライアントファーストという一本の筋を通していきたいですね。
グローバルビジネスで、一本、筋を通すとしたら、
それは顧客との信頼関係、クライアントファースト(顧客主義)です<“KEY PERSON”の愛用品>マッキントッシュのカフスボタン英国の建築家のチャールズ・レニー・マッキントッシュがデザインしたカフスがお気に入り。ゴルフの全英オープンのスポンサーになっていることもあり、ふとしたことがきっかけでマッキントッシュの作品に触れ、魅了されるようになった。
眼光紙背 ~取材を終えて~
海外ビジネスの勢いが増しているなか、岩本社長の海外出張に出かける機会も増えている。欧州や米州との行き来が多いと、どうしても気になるのが“時差ボケ”。ところが岩本社長は「これまで時差ボケで困ったことは、ほとんど経験がない」と話す。
理由はご本人もよく分からないそうだが、心当たりがあるとすれば、「いつ、どこでもすぐに寝られることが関係しているのかも知れない」とのこと。
飛行機のなかや、いつもと違うベッドでは寝つきが悪くなる人は少なくないが、こと岩本社長に限っては、「いくらでも寝られる」と、もはや“得意技”の領域に達している。機上でお酒をほんの少し口にしただけで、もうぐっすり。
会えば会うほど親しみやすくなるのは万国共通のコミュニケーションの基本。今年も世界中を飛び回って、「顧客との信頼関係を深めることにつなげていきたい」と意欲を示している。(寶)
プロフィール
岩本敏男
1953年、長野県生まれ。76年、東京大学工学部卒業。同年、日本電信電話公社入社。85年、データ通信本部第二データ部調査員。91年、NTTデータ通信(現NTTデータ)金融システム事業本部担当部長。2004年、取締役決済ソリューション事業本部長。07年、取締役常務執行役員金融ビジネス事業本部長。09年、代表取締役副社長執行役員パブリック&フィナンシャルカンパニー長。12年6月、代表取締役社長。
会社紹介
NTTデータの今年度(2017年3月期)の連結売上高は、前年度比3.4%増の1兆6700億円、営業利益は同4.1%増の1050億円の見込み。海外売上高は5690億円で、全体の約34%を占める見通し。来年度(18年3月期)からは年商約3000億円の米デルのサービス部門が通年で連結され、連結従業員は10万人を超える見込み。