基幹系システムの分野にも本格的なクラウド化の波がきている。外資系大手ERPベンダーを中心に、クラウドネイティブなかたちにつくりなおした「次世代のERP」ともいうべき製品が続々登場している。「完全Web-ERP」を標榜し、日本企業のニーズを真に満たす国産の次世代ERPをつくろうという志のもとに生まれた「GRANDIT」は、こうした市場の環境変化を飛躍の糧とできるか。
認知度は高まったが、哲学は不変
──社長に就任されてから1年が経過しようとしています(取材日は3月1日)。石川さんは、これまでのキャリアで何度かGRANDITには関わっておられますが、現状についてどう評価されているのでしょうか。
GRANDITに社名変更する前のインフォベック時代に、製品開発担当の取締役をやっていました。昨年4月に現職に就任し、7年ぶりにGRANDITに携わることになったのですが、変わったこと、変わらなかったこと、両方ありますね。
まず、8年前と比べると認知度が段違いに高まりました。当時は、お客様からRFPが出て競争見積りに参加するとなっても、最後に声がかかるような状況でしたから。
──言葉は悪いですが、当て馬というか……。
そう。だから、そういうケースで受注までこぎ着けるのは本当に難しかった。GRANDITを売り始めて数年というタイミングでしたが、苦労が大きかった時代です。最近では、むしろ最初に声をかけていただくことが多いですし、お客様がRFPを書く前から商談に参加できるようになっていて、受注の確率も当時とは全然違います。隔世の感がありますね。
──変わっていなかったことは何でしょうか。
すべてをユーザーの目線に立脚して考えるという点です。GRANDITのコンソーシアムが発足した当時、私は帝人の情報システム部門にいて、おもしろいことが始まったと思って応援していました。その1年後には、自分もGRANDIT陣営の一員としてやっていくことになるのですが。
──応援していたというのは?
コンソーシアムが立ち上がった2003年頃というのは、日本にもかなりERPが入り始めた頃です。帝人も入れていました。ただ、当時は海外ベンダー製のERPしかなくて、手形管理もないし、伝票承認一つ取ってもワークフローを外付けで買わなければならなかったんです。ユーザー側のシステム部門は、日本固有の商慣習に対応する機能を買ってきたり、自分たちでつくって、ERPとつなぐインターフェースを一生懸命つくっていました。追加のコストも相当かかりました。
さらに、当時の日本企業は、ホストにしてもオフコンにしても、かなり優秀なUIをもったシステムを使っていたんです。画面なんかみなくても、伝票をみながらバシバシ入力できましたから。ところが、海外製のERPは全部ポイント・アンド・クリックが必要だったわけです。でも、それを当時の外資系ERPベンダーはきちんとデモしなかった。「海外の経営者はこういう情報をもとにこういう判断をして、スピーディに事業を進めている」という美しいストーリーだけをパワーポイントで日本の経営者にみせて、ERPの導入までもっていってしまったんです。
──ユーザー側からは、当時の海外製ERPパッケージに相当の不満があったということですね。
結局ERPの導入、運用でうまくいかない部分があると、しわ寄せはすべて情報システム部門や情報システム子会社にきてしまうんです。そういう非常に辛い経験をしてきた人たちが集まってコンソーシアムをつくったわけです。必要に駆られて改修したり、機能を追加した場合のシステムの配布にはすごく苦労してきたし、製品を導入した後にお客様にご迷惑をおかけするわけにはいかないので、ちゃんとデモで操作性をみてもらえるようにするためにも「完全ウェブ型」にしよう、苦労してきたワークフローや組織変更を支援する機能くらいは標準搭載しよう、というような議論を経てGRANDITはできあがりました。
──そうした“ユーザー目線”がいまも変わっていないことが端的に表れている部分は?
当初、GRANDITのお客様は個社ごとに導入されることが多かったのですが、最近は企業グループの共通経営基盤として使っていただくケースも増えてきました。そこで、最新のバージョンでは、グループ経営管理機能を強化し、グループ会社間のマスターの一元管理や取引データ相互連携を実現しています。個社の決算を締めた後に、連結決算の開示までかなり時間がかかるという課題を抱えている企業グループは多いんですが、何に時間がかかっているかというと、親会社の担当者がグループ内取引の伝票の不整合などを一件一件抽出して確認するという作業をしているんです。馬鹿らしいですよね。今回のバージョンアップではこうした課題に対応したわけで、ユーザー企業の立場に立って、導入後に実際に困ったことを標準機能の拡充で解決していくという思想をもち続けているということです。
プロプライエタリの世界には戻らない
──ERP市場は、クラウド化が近年急速に進んでいるという印象です。市場環境が大きく変化しています。
オンプレミスのインフラをクラウドにもっていきましょうというIaaS、PaaSレイヤのクラウド活用は確実に浸透しています。「完全ウェブ型」と謳っているとおり、GRANDITはおそらくクラウドと親和性の高いERPとしては最初期に出た製品の一つだと思いますし、コンソーシアムメンバーもIaaS、PaaS活用については、いろいろな取り組みをしてきています。
ただ、ERPのSaaS化は市場を見渡してみてもまだ進んでいないです。とくにGRANDITが主戦場としている準大手から中堅企業のレンジはその傾向が顕著です。コンソーシアムメンバーでも、2社がかなり早いタイミングからSaaSで提供することをアナウンス、アピールしてきましたが、結果的にはあまり実績が上がっているとはいえない状況です。
──GRANDITに限ったことではないですよね。
ユーザーにとっては、自分たちが培った仕事のやり方、ノウハウは競争力の源泉であり、それを個別のアドオン/カスタマイズでシステムに写し取っていくべきという考えがあるんです。それが柔軟にやれるのは、SaaSよりもIaaS、PaaSのレイヤであるということでしょう。
──すると、SaaSには注力しない?
SaaSもこれまでと同じように継続はしていきますが、より重視していくのは、クラウド上でAIなどの新しい技術との接続性を高めていくことです。お客様の期待に十分に応えるためには、もはや自前の機能拡張だけでは限界がありますし、新しい技術は将来的に何がデファクトになるかもわからない。それでも、将来にわたってGRANDITがお客様に大きな価値を提供し続けるために、API機能のさらなる拡充などは必要でしょうね。
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