日立システムズエンジニアリングサービスの帆足明典社長は、顧客との適切な関係を模索しながら、この3年をかけて改革を推し進めてきた。長いつき合いのなかで、顧客との同化が進むのはいいが、緊張関係が薄れるという弊害もある。プロジェクト管理の強化やSEのスキルの再評価なども、その取り組みの一つ。目指すは、お手伝い要員ではなく、顧客の課題解決を担うほどの信頼されるパートナーであり続けることだ。
「フィー型」の独自商材を開発
──この10月からデータ転送サービスを始めるなど、新しい取り組みを打ち出しています。どのような特色があるのですか。
日立システムズグループでは、継続課金型のサービスを「フィー型」と呼んでおり、戦略的にこの方式のビジネスを伸ばしています。今回、立ち上げた「グローバルセキュアデータ転送サービス」も、フィー型ビジネスの一環。他にもビーコン(無線標識)を使ったIoT方式のビジネスにも力を入れています。これもフィー型で顧客に利用してもらえるよう取り組んでいます。
──フィー型は、いわゆる月額や年額で利用してもらうアプリケーションサービスですよね。SaaS型とは違うのですか。
継続課金という意味では同じですが、システムを客先に設置して利用してもらうことも想定しています。一般でいうSaaSは完全オンラインでのサービスですが、例えば、ビーコンと無線タグを組み合わせて物流倉庫の物品管理や紛失防止などに展開するときは、現地でのシステム構築が欠かせません。この構築したシステムをフィー型のサービスとして利用してもらうわけです。
──なるほど、現地でIoTなどのハードウェアを使ったSIが絡むと、途端にオンラインサービスだけではカバーしきれなくなりますからね。主力とするシステム開発や運用のノウハウを生かしやすいと。
私はフィー型サービスからさらに一歩踏み込んで、業務そのものも請け負うBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)にもつなげていきたいと考えています。
前述の「グローバルセキュアデータ転送サービス」は、製造業ユーザーがCADで設計したデータを、国内外の事業所とやりとりすることなどを想定しています。大容量のデータ転送は、国や地域の規制や通信事情に影響を受けやすく、運用が複雑になりがちです。当社では、同転送サービスを提供するとともに、運用業務もBPOとして丸ごと請け負う。こうすることでユーザーは本業に専念できるようになります。
──本業ではないけれど、繁雑になりがちな業務を効率化して、その業務そのものもBPOで受注してしまうわけですね。
IoTなんかも、システムを構築したら終わりではなく、その後の効果測定や改善が大切になってきます。当社では小売店向けにIoTを活用したマーケティングの仕組みを提供していますが、IoTから集まるデータを分析して、マーケティングに生かす部分をBPO方式で請け負う。そして、継続的な効果測定や改善提案をしていくことを重視しています。
当社の売上高構成比率は開発と運用のビジネスがほぼ半々ですが、こうした取り組みを進めていくことで運用を6割くらいに高めていきたい。
縮小傾向にあった外販ビジネス
──純粋にBPOだけに注力してもいいような気がしますが。
それだけでは弱い。むしろデータ転送やIoTをはじめとするフィー型のサービス事業をしっかり確立させたい。顧客の課題をピンポイントでズバッと解決して、その延長線上にBPOがあるイメージです。客先に行って、「何か請け負える仕事はありませんか?」では、今の時代、なかなか通用しません。
──フィー型とBPOの組み合わせで、意欲的にグループ外のマーケットを攻めている印象を受けましたが、前々からそうした経営方針なのですか。
当社は以前から日立システムズグループ外に向けたビジネスに取り組んできましたが、残念ながら一時期は縮小傾向にありました。私が社長に就いた2014年から再び、拡大路線へと転じることに決めました。
正直なところ、グループ外に向けた外販ビジネスは利益率の面で少々課題を抱えていました。仕事の請け負いは、例えばITインフラの再構築であるなら、その部分を丸ごと請け負うわけです。顧客の要件を聞き込み、仕様を固めて、成果物を納品する流れが一般的ですが、スムーズに流れず、当初見込んでいた利益率を下回ってしまうケースが散見されたのですね。
──その課題をどう改善されましたか。
まずは、複数のプロジェクトの原価や品質、納期の管理を横断的にみるPMO(プロジェクト管理組織)を大幅に強化しました。並行して、社内の技術者のスキルを項目別に評価し直しました。ちょうどITスキル標準(ITSS)のようにネットワークやデータベース(DB)、セキュリティなどの複数項目の習熟度を可視化。これによって、例えば、DBの再構築を含むIT基盤系のプロジェクトなのに、なぜかDB担当の技術陣のスキルが弱いとか、当初からプロジェクトメンバーの人選に無理があることが一目でわかるようになりました。
そんなのあたりまえじゃないか、との指摘をいただきそうですが、顧客と長いおつき合いをさせていただいているうちに、だんだんと顧客に同化する傾向がみられるようになる。こういう言い方なら、多くのSIerに同じような経験があるのではないでしょうか。
仕事を請け負う以上、こちらが責任をもって、適正利益を確保しつつ、過不足なく仕上げることが求められます。もし、ユーザーのお手伝い感覚がどこかにあるとすれば問題です。そのときはそれでいいかもしれませんが、プロジェクトに問題が発生したとき、責任の所在が曖昧になって、対処できなくなる怖さがあるのです。
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