10年以上も前から働き方改革に取り組んできたサイボウズ。ただ、政府が掲げるそれとは異なり「働き方の『多様化』がカギ」と青野慶久社長は訴える。サイボウズには多くの制度があるが、それは会社が一方的に決めたものではない。社員一人ひとりに対して働きやすい環境を提供するため、社員の声を吸い上げて働き方の制度を策定することに力を注いだ結果だ。「現場をみることが重要」と語る青野社長に、サイボウズが進める真の働き方改革について聞いた。
政府に“揺さぶり”をかける
──「働き方改革に関するお詫び」という新聞広告は大きなインパクトがありましたね。
政府が働き方改革を掲げ、国を挙げての取り組みが進もうとしていますが、当社がイメージしているものとは違うなと感じました。政府が取り組んでいるのは、残業を解消することに重きを置いていますよね。残念と思いました。そこで、異論を唱えるために広告を出したんです。さまざまな方から連絡がありました。実は、政府関係者からも連絡がきたんですよ。例えば、プレミアムフライデーの担当者とか。「ちょっと会わないか」との話だったので、「あー、怒られるんだろうな」と思っていたのですが、逆に評価してくれたんです。やはり、気にしているんでしょうね。政策が本当に正しいのかどうかを。また、プレミアムフライデーを企業ごとにカスタマイズしてほしいという期待もあるようです。
──あの広告が口火を切ることになったわけですね。今後も、働き方改革のあり方に物申していくのですか。
聞こえがよくないかもしれませんが、“揺さぶり”をかけていきますよ(笑)。世の中が変わるまで、社会に説い続けていきます。
100人100通りの働き方がカギ
──では、サイボウズが考える働き方改革とは?
当社は10年以上も前から働き方を変えることに取り組んできましたが、とくに社内で一斉に号令をかけたわけではありません。強いていうなら、働き方の「多様化」という点を重視したということかな。100人いれば100通りの働き方があるので、一人ひとりが求める環境づくりに力を注いできました。いまでは徐々にではありますが社員にとっていい環境が整備されてきたのではないかと自負しています。
──確かに、政府が掲げている働き方改革は「時短」ばかりに気を取られているようにも感じますね。
これまで多くの企業が残業させ放題だったといえます。ですので、残業規制には賛成です。ただ、全員が一斉に18時に帰るのはどうかと。仕事が始まる時間も一緒なわけですよね。これでは、企業が「(某社のように)つるし上げられる」と捉えて法律に遵守するだけです。始業時間や終業時間、勤務時間自体は、バラバラでいいんですよ。
──会社に縛られて社員も仕方なく従うという、おかしな状況に陥るというわけですね。では、どうすればいいのでしょう。企業が働き方改革を実現するうえで必要なことは何ですか。
まず、働き方改革の本質を理解している企業が少ない。“御上”をみているんです。自社の現場をみていない。“御上”が号令を出したから、「うちも働き方に関する制度を抜本的に変える」という考えは間違っている。現状の制度で社員が働きやすいのであれば、そのままでいいんです。社員が仕事するうえで困っていることを解決するために新しい制度を採り入れる。これが必要なんじゃないでしょうか。
──寝る間を惜しんで仕事をしなければならないケースがあっても、働きやすければいいということでしょうか。
寝る間を惜しんでやってもいいと思うんです。でも、苦しみながら、身体を壊してでも、というのは駄目です。楽しみながら、しかも心身が健康であることが重要なんです。寝る間を惜しまなくたって成果を出す人はいます。短い時間しか仕事をできないのであれば、その社員が働きやすい環境を会社側がつくる。余談ですが、私も当社が立ち上がったばかりの時は、寝る間を惜しんで仕事をしていました。まだ若くて体力があったし、子どももいませんでしたからね。でも、いまは若くもありませんし(笑)、子どももいる。自分の置かれている状況に応じて、仕事をするのがいいと考えています。
──育児や親の介護など、社員一人ひとりの事情を踏まえて仕事ができる環境を、会社側がつくるということですね。
その通りです。「100人100通り」という言葉があるように、それぞれの社員に合った制度を考えるべきです。すべての社員が9時から5時の仕事を望んでいるならば、そのようにするのもいい。ところが、短い時間しか働けない、この時間帯しか働けないという社員がいて、そのような社員を、例えば正社員から契約社員などにしたり、最悪は解雇したりと、多くの会社が社員の事情を考慮しないから問題になっているんです。会社全体の制度を何とかするのではなく、個々を考えた制度をつくることが重要なんです。残業したい人もいるし、残業したくない人もいる。選択肢を与えなければなりません。
──そうなると、社員自体の意識変革も必要になってきますね。
「自律」が必要になってきます。自分で働くスタイルを選択すること。もし、自分に適した制度がなければ、制度をつくってもらう会社に伝えることも大事です。自分に合った制度を選択したならば、仲間とのコミュニケーションや調整もしなければならない。自分で責任をもつ。当社では、そのようなことを実施して多くの制度ができたのです。
──実際に働き方の多様化に取り組んで、どのような効果がありましたか。
ここ数年、当社は売り上げが伸びているのですが、ビジネスモデルをクラウド化にシフトしたことが主な要因です。クラウド化へのシフトを、早すぎず遅すぎず思い切ってできた。これは、モチベーションを高く積極的に取り組む、変化適応力の高い人材が揃っているからです。“御上”のいいなりで働き方を変えていたら、駄目だったでしょう。今でもパッケージが多いという点では、国内ソフトベンダーでクラウド化を成功しているケースは少ない。社員の変化適応力が高いのは、異分子が混ざったダイバーシティが大きく効果を発揮しています。その背景にあるのが、働き方の多様化です。
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