ITを使ってビジネスモデルを変革する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が、あらゆる業種・業態の企業経営にとって最優先の課題だと、野村総合研究所(NRI)では位置づけている。DXの実現には既存事業のスクラップ&ビルドや異業種との連携、シェアリングエコノミーなど、さまざまな手法を積極的に活用していく。NRIでは、DXによってユーザー企業の新しいビジネスを創り出すアプローチを「ビジネスIT」と定義。向こう数年はビジネスIT領域の売り上げを年率10%以上の勢いで伸ばす方針だ。此本臣吾社長に話を聞いた。
新しいビジネスをつくるITを重視
──2018年、御社にとって大きく伸びる領域はどこでしょう。
成長が期待できる領域はいくつかありますが、そのなかでDXは大きく伸びるとみています。AI(人工知能)やIoTをはじめとする新しいデジタル技術を駆使して、これまでにないビジネスを創り出すのがDX。さまざまな実証実験(PoC)を通じて、昨年までは、いわばデモンストレーションをやっていた段階でしたが、18年は、いよいよビジネスとして立ち上がるとみています。
──DXは、既存事業をデジタルによってトランスフォーメーション(転換)させるわけですので、ややもすれば既存事業を破壊するスクラップ&ビルドの側面があります。お客さんに向かって「その事業はもう古いですから、新しい事業に転換しましょう」と、SIerの立場で言えるものなのでしょうか。
ご指摘の通り、DXを推し進めることが既存事業を壊すことにつながる局面も出てくる可能性があります。ただ、現実問題として世界中の企業がDXを推進するなかで、レガシービジネスに固執するあまり衰退してしまっては意味がありませんよね。ユーザー企業に稼いでもらって、初めてSIerも潤うというものです。DXの意義は、デジタルを活用することで新しいビジネスを創出すること。企業経営者が世界的な激しい競争環境を踏まえて、不退転の決意で取り組む。当社はそれを全力で支援することで価値を創造します。
──具体的には、どのようにDXを支援するのでしょう。
従来の業務システムが「ITシステムを作る」のだとしたら、ビジネスITは「ビジネスを創る」点が、まず大きく違います。
──なるほど、ITシステムを作るのではなく、ビジネスを創るわけですか。
そうです。当社では“ビジネスをつくるIT”という意味で、DX領域を「ビジネスIT」と呼んでいます。DXの実現には、いくつかのアプローチが有効です。異業種と協業するオープンイノベーションや、シェアリングエコノミー(共有経済)の考え方を採り入れることなどが有望だとみています。
例えば、この1月1日付で当社とKDDIがDXを支援する合弁会社「KDDIデジタルデザイン」を立ち上げました。資本金70億円のうち当社49%、KDDI51%の出資比率で、初年度150億円の売り上げを見込んでいます。5GやLPWA(IoT向け低電力無線通信)、SD-WAN(ソフトウェア制御の広域ネットワーク)など、KDDIの次世代通信ネットワークやIoTプラットフォームを駆使してDXを支援するだけでなく、当社顧客との異業種協業、オープンイノベーションの基盤としても応用していきます。
DXの実現手法は従来ITとは異なる
──資本金70億円とは、ずいぶん大がかりな仕組みを立ち上げましたね。
顧客のDXを支援するには、そのくらいの仕掛けが必要だということです。従来の業務システムは、要件をシステムに落とし込む手法です。当社はこれを「ビジネスIT」に対比して、「コーポレートIT」と呼んでいます。コーポレートITは、うまくシステムに落とし込めることを前提にしていますが、ビジネスITは実証実験や試行錯誤といったアジャイル的な手法でDXを実現します。
コーポレートITは予算が立てやすく、よほどのことがない限りコストオーバーランにはならない。しかしビジネスITは予算がみえにくい。DXを手がけ始めたときは、このあたりを予算立てからして障壁になっていました。異業種協業やオープンイノベーションのアプローチも含めて、ビジネスITはコーポレートITの手法とは大きく異なるのです。最近になってユーザー企業にDXの特性を理解していただき、柔軟な予算組みで応じていただけるようになったことは、当社にとって大きな追い風になっています。
──先ほどDXの形態の一つにシェアリングエコノミーが有望だとお話しされましたが、日本での盛り上がりは今一つのような気がします。
確かに中国が猛烈な勢いでシェアリングサービスを伸ばし、取引総額は60兆円規模に到達。20年には中国GDPの10%に相当する220兆円の取引規模への拡大が予想されています。中国はC2C(個人間取引)でシェアリングエコノミーに火がつきましたが、日本のような成熟市場ではB2B(企業間取引)やB2B2C(企業→企業→消費者)といったサプライチェーン全体の共有経済化が進むとみています。ここでも異業種の協業は重要なポイントになるとともに、国内でもシェアリングエコノミー市場が23年には1兆円規模へ拡大すると予想しています。
──異業種協業は、NRIのコンサルティング部門のリソースも生かせそうです。
そうですね。コンサル部門はさまざまな業種・業態のユーザー企業の経営戦略のところに携わっています。ビジネスITは新しいビジネスを創り出すことを目的としていますので、そうしたユーザーの経営戦略に役立つコンサルサービスを提供する一方で、ITの活用や実装の部分はSI部門がしっかりカバーする。当社では、この連携技をコンサルティングとITソリューションを組み合わせた造語「コンソリューション」と呼んでいます。ビジネスITの手法で顧客のDXを成功させるにあたり、当社のコンソリューションの経営リソースが大きな強みになる。
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