グローバルでは第2ステップを視野に
──課題があるとすれば、どこでしょう。
DXのデモンストレーション期間はほぼ終了し、これからは本格的なビジネスとして立ち上げていかなければなりません。「顧客体験」と「有効性」の二つの軸で、しっかりと効果測定をします。指標をベースにPDCA(計画・実行・検証・改善)を回し、なおかつ顧客のライバル他社の動きも考慮に入れながら、顧客のDXを成功に導くよう総合的に支援していく。従来のITのように「ITシステムを作る」ことに軸足があるわけではありません。新しいビジネスを成功させてこそ価値が生まれるところが、ビジネスITの難しさであり、醍醐味でもあります。
折しも18年はシンクタンクの旧野村総合研究所、SI会社の旧野村コンピュータシステムが合併して30年目にあたります。DXを成し遂げるには、異業種協業を含めたコンサルティング支援とITソリューションを組み合わせた「コンソリューション」の総合力が求められます。当社が培ってきたコンソリューションの強みをテコに、ビジネスIT領域の売り上げを年率10%以上の勢いで伸ばしていく方針です。
──売り上げを伸ばすという意味では、直近でオーストラリアの有力SIerを相次いでグループに迎え入れました。
海外M&Aの一環で17年9月末までに、年商約250億円、従業員数約1000人のSMSマネジメント&テクノロジーをグループに迎え入れました。16年末までにグループ入りした同じくオーストラリアの年商約150億円のASGグループとの単純合算で約400億円規模の増収効果となります。SMSとASGは、技術的な強みや顧客基盤、オーストラリア国内での営業拠点が、ちょうどよい補完関係にあるのです。例えば、ASGは公共系に強いのに対して、SMSは金融・通信に強いといった具合です。この2社に連携してもらうことで、単純合算以上の大きな相乗効果を期待しています。
──此本社長が16年4月、トップに就くにあたりグローバルビジネスの拡大を重点施策に掲げています。これからもM&Aを進める予定ですか。
ただ売り上げを伸ばすためだけのM&Aはしません。当社グループが進めるDX戦略や、クラウドに通じるところも多い利用型サービスの業界標準ビジネスプラットフォーム戦略などの方向性と合致するM&Aを重視しています。SMS、ASGともに当社グループの戦略に合致したからこそグループに加わってもらいました。オーストラリアは日本と比較してITやDXに開放的であり、SMS、ASGはクラウドネイティブなITビジネスでリードしています。オーストラリアをグローバル第1ステップとすれば、次のグローバル第2ステップは北米でのビジネスの一段の活性化を狙っていきたいですね。
従来の業務システムが「ITシステムを作る」のだとしたら、
ビジネスITは「ビジネスを創る」点が、まず大きく違います。
<“KEY PERSON”の愛用品>その場で感謝の気持ちを書き留める
越前和紙の郵便はがきとパーカーの万年筆。音楽会などに招待されたとき、その日のうちに感謝の気持ちを記すのに重宝している。「印象が薄れてしまう前に書き留めて、翌日には投函する」。現場感と手書きのぬくもりを大切にしている。
眼光紙背 ~取材を終えて~
企業経営におけるIT投資は、「合理化」と「新規事業の立ち上げ」の大きく二つに分かれる。合理化投資は「コスト削減が主目的だけに、どうしても抑制的なIT投資になる」と傾向を分析。これに対して、事業創出系のIT投資は、新しい事業のリターンが大きければ大きいほど「IT投資も前向きなものになる」と、此本社長はみている。
合理化や自動化といった従来型の業務システム領域は、SIerにとってもちろん重要なビジネスだ。しかし、これだけでは将来への成長余地が限られる。
そこで、新規事業の創出につながるDXに此本社長は成長可能性を見出す。DXはユーザー企業の既存事業のスクラップ&ビルドなどのリスクが伴う。リターンを最大化していくためには、SIerとして「より総合的な力量が求められるようになる」と、NRIのもつコンソリューションの強みを最大限に発揮してDX支援に取り組む構えだ。(寶)
プロフィール
此本臣吾
(このもと しんご)
1960年、東京都生まれ。85年、東京大学大学院工学研究科産業機械工学修了。同年、野村総合研究所入社。94年、台湾・台北事務所長(のちに台北支店長)。2004年、執行役員コンサルティング第三事業本部長兼アジア・中国事業コンサルティング部長嘱託。10年、常務執行役員コンサルティング事業本部長。15年、専務執行役員ビジネス部門担当、コンサルティング事業担当。16年4月1日、代表取締役社長に就任。
会社紹介
野村総合研究所(NRI)の今年度(2018年3月期)の連結売上高は前年度比8.4%増の4600億円、営業利益は同9.4%増の640億円を見込む。既存事業の成長に加えて、オーストラリアのASGグループやSMSマネジメント&テクノロジーをグループに迎え入れたことによる増収効果も後押ししている。