IBM製品のトップセラーとして長年にわたって君臨してきたJBCCホールディングスグループ(JBグループ)。トップセラーである以上、常に売上高を追求してきたJBグループだが、2017年、製品卸の子会社を連結から外すことにより、ビジネスモデルの変革を鮮明に打ち出した。この4月1日付で中核SI事業会社のJBCCの社長と兼務するかたちでJBCCホールディングスのトップに就いた東上征司社長は、前任の山田隆司社長(現会長)と二人三脚で“利益重視”を旗印にビジネスモデル変革を推し進めた中心人物。トップとして、JBグループの今後をどのように描いているのだろうか。
どうせ変わるなら早い方がいい
――売り上げを追わない方向へと経営の舵を切りました。その成果が見えてきたタイミングでの社長交代ということでしょうか。
おかげさまでJBCC単体ベースで見ると19年3月期に19四半期連続で営業利益増、JBグループ全体でも5期連続で増益の見込みです。利益重視の経営が本格的に軌道に乗ってきたと手応えを感じています。
「売り上げを追わない」との問いですが、売り上げはもちろんほしいですよ。ただ、当社を取り巻く状況が大きく変わる中で、一時的に売り上げを減らしてでも、将来につながるビジネスモデルへと変革する必要があったのです。先送りにするのではなく、「今やろう」と、山田さん(山田隆司・現代表取締役会長)や他の役員と相談して決めました。
――ビジネスモデル変革の推進には、大胆な行動が必要だったと思います。
象徴的なのは、JBグループの付加価値ディストリビューター(VAD)のイグアスを連結から外したことです。長年にわたってIBMのトップセラーだったJBグループが、IBM製品を軸としたディストリビューション事業をグループの外に置く決断は、社内のみならず、社外の方々から見ても分かりやすい意思表示だったと思います。
結果として売り上げは800億円台から500億円台に下がりました。しかし、営業利益が増えたのです。粗利の限られたディストリビューション事業を外すことで、利益率が上がるのは自然な流れですが、それだけでなく営業利益の絶対額を増やせたのは、大きな成果だと自負しています。
要因として挙げるなら、「アジャイル開発」と「クラウドネイティブ」をキーワードに、中核事業であるSIビジネスを根本から見直したという点です。
――アジャイル開発やクラウドは、今となっては珍しいキーワードではありませんし、それらに取り組んだからといって利益増につながるとも限りません。
これまで綿々と続けてきたSIビジネスにアジャイル開発やクラウドを応用するとなると、失うものがあるのです。端的に言えば、短期的な売り上げが落ちます。それを受け入れてなお、アジャイル開発やクラウドネイティブを推し進めたことが、増益につながったと考えています。
短期間のリターンが好循環を生む
――ビジネスモデル変革への取り組みでは、ディストリビューション事業の切り離しだけではなかったのですね。アジャイル開発では、どのような取り組みをされていますか。
まず、ユーザー企業のIT投資のうち、最も優先して取り組むべき領域を切り出してもらいます。次に当社オリジナルの上流工程支援ツール「Xupper(クロスアッパー)」と、ウルグアイの超高速開発ツール「GeneXus(ジェネクサス)」を使って、従来の半分以下の期間とコストで切り出した領域のシステムをつくってしまいます。短期間で結果が出るため、ユーザーは必ず次の投資を決めて、当社に発注するという好循環が生まれます。
――すでにSIビジネスの変革が軌道に乗っているという印象を受けました。
アジャイル開発を本格的に始めたここ数年で、100社あまりから案件を獲得できました。例えば、ずっと某コンピューターメーカーの顧客だった大手学習塾。模擬試験のシステムを作り直すという案件で、当社はコンピューターメーカーの半分以下のコストと納期を提案し、案件を勝ち取りました。
以前の当社だったら、恐らく納期は同じで、価格だけ少し安くして提案していたでしょう。やることはライバルと同じですから、提案価格を下げただけ粗利も少なくなってしまう。おまけにアジャイルのように“作り直すこと”を前提としていない従来のウォーターフォール型の開発ですから、万一の手戻りを考慮すると、巨額の不採算案件になるリスクを抱えているわけです。実際、当社は5年ほど前に不採算案件をやって利益を大幅に下げています。
不採算案件はベンダーが損をするだけでなく、ユーザーにも多大な迷惑をかけるため、誰も幸せになれない。担当SEの残業時間も長くなります。だったら、たとえ当該案件の売り上げが半減したとしても、XupperとGeneXusで手堅く適正利益を得ながら、ユーザーに一日でも早くIT投資のリターンを手にしてもらったほうがいいに決まっています。
――JBグループの強みとするIBMの旧AS/400(現Power Systems)が支える基幹業務システムとの相性を考慮すると、ウォーターフォール型がいいということはありませんか。
基幹業務も小分けにして、優先順位の高いところからアジャイルで開発する方法がありますよ。ビジネス環境の変化に適応するには、とにかく早く開発し、ユーザー企業が競争に打ち勝っていくことが何よりも大切なのです。これまでと同じやり方をしていたら、進歩のない結果にしかなりません。
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