セキュリティ事業が急成長
――NTT研究所の技術を商品化し、ビジネスにつなげる会社は、NTT-ATのほかにNTTテクノクロスがありますが、役割の違いを教えてください。
当社の特徴は、NTTの電話交換機の時代から伝統的に通信ネットワーク系の技術者が多いところにあります。一方、NTTテクノクロスはアプリケーション寄りの領域に強い。とはいえ、当社もWinActorのようなアプリケーション商材を持っていますので、先端領域では互いに隣接する部分も少なくありません。私個人は、技術進化が著しい先端領域については、あまり役割を明確にせず、アイデアベースでどんどん商品化していくべきだと考えています。
NTTテクノクロスとの絡みでいえば、例えば同社がコンタクトセンター向けに開発している「ForeSight Voice Mining(フォーサイトボイスマイニング)」があります。街の喧騒などの雑音混じりの会話から音声認識ができたり、抑制された感情を判別できる高度な感情分析技術を実装している商品で、これとWinActorを組み合わせることもできます。このように両社の成果物の組み合わせにより、付加価値を高めることが可能です。
――ほかにはどのような注力事業がありますか。
情報セキュリティです。実は16年に顧客情報を含む外付けハードディスクドライブを紛失するという、あってはならないことを当社が起こしてしまいました。それ以来、社内でより一層に徹底的なセキュリティ管理を行っています。情報漏えいを起こさない物理的、システム的な仕組みづくりに力を注いでおり、その成果をサービス事業にも反映しています。
具体的には、当社のセキュリティ/ネットワーク運用センターからの遠隔監視や、ユーザー企業の社員向けのセキュリティ対応訓練サービスが好評をいただいています。顧客宛に出入り業者を装うなど、いわゆるフィッシング詐欺を模してセキュリティリスクのあるURL入りのメールを送り、現場の担当者がURLを踏まないかを試す。何の訓練もしていないと、だいたい2~3割はひっかかるという巧妙なものですが、現場の社員がしっかり訓練を行えば騙される確率は大幅に下がります。
とはいえ、ユーザー企業の会社側としては、ある一定数の自社社員がURLを踏むことを見越して、URLを踏んだときの異常な挙動をできる限り早期に発見。事後対処を適切に行えるまでの訓練メニューを含んでいます。ここ数年はこうしたセキュリティ関連サービスが年率3割の勢いで伸びています。
WinActorをはじめ、AI・ロボティクス、情報セキュリティ、そしてグローバルを切り口に、ビジネスを伸ばしていきます。

Favorite Goods
TUMI(トゥミ)のリュックサック。健康のために「1日平均2万歩は歩く」ことを心掛けている。40歳のときに体重が90キロ近くあったが20キロ減らした。歩くお供に最適なのがTUMIの背負い式のビジネスバッグで、ここ20年ほど買い替えながら愛用している。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ワクワク感がなければ良い仕事はできない
根っからの技術者である木村丈治社長は「ワクワク感がなければ、良い仕事はできない」と話す。技術者としての腕試しになる難しいテーマに挑戦することは「ワクワクするし、それが成功しても、失敗しても得るものがある」と。
木村社長自身、NTT西日本の閉域IP基幹網にIPv6を応用するプロジェクトを担当するなど、常に時代の最先端に身を置いてきた。映画やドラマを高解像度で配信するサービスや、インターネット接続と電話を一つのネットワークで提供する基礎を「情熱を持って作ってきた」と振り返る。
技術は目まぐるしく変わっていく。IoTの遅延問題を解消するためエッジコンピューティングの採用が進んだり、ブロックチェーンのような分散台帳が出てきたりと、クラウドの「集中処理」から再び「分散処理」へと、振り子のように揺れ動いている。
グローバルの技術動向に視野を広げ、情熱を持って、技術とビジネスをつなげていく。技術者としてのワクワク感を大切にしてきた木村社長の実体験に基づいて、「グローバル・情熱・つなぐ」を経営指針としている。
プロフィール
木村丈治
(きむら じょうじ)
1956年、東京都生まれ。82年、慶應義塾大学大学院工学研究科修士課程修了。同年、日本電信電話公社(NTT)入社。90年、交換システム研究所主任研究員。99年、情報流通基盤総合研究所ネットワークサービスシステム研究所主幹研究員。2004年、同研究所サービスインテグレーション基盤研究所主席研究員。06年、西日本電信電話(NTT西日本)技術部研究開発センタ所長。11年、取締役。14年、常務取締役。15年、NTTアドバンステクノロジ代表取締役社長就任。
会社紹介
NTTアドバンステクノロジの2018年3月期の売上高は508億円。従業員数は約1800人。21年度(22年3月期)は、年商600億円超を目指すとともに、NTTグループ以外の一般顧客向けの売上高比率を半分以上にすることを目標に据えている。