コンタクトセンター変革の肝は
SoRとの連携
――先ほど、日本のコンタクトセンターでは新しい技術の浸透が遅いというお話がありましたが、何か解決策は考えられますか。
コンタクトセンターをコストや効率中心で考えられている一方、センターの管理者とお話をすると、「会社にどれだけ貢献しているか、もっと認められたい」とよくお聞きします。このジレンマを解決するには、いわゆるSoE(System of Engagement)の領域である私たちと、ERPのようなSoR(System of Record)領域との連携が必要と考えています。顧客のLTV(Life Time Value:生涯価値)とコンタクトセンターの働きをそれぞれ可視化し、それらのデータをSoRの上で評価できるようになれば、現場をいかに効率的に働かせるかではなく、ビジネス創出のためには能動的な投資が必要なことが分かってくる。
――SoRとSoEの連携は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の勘所として語られることが多いですが、コンタクトセンターの改革でもまさにそこが重要になると。
DXとCXの波は、間違いなく一緒になって日本にもかぶさってきますよ。一朝一夕に実現できるものではないと思いますが、「2025年の崖」が指摘されるようになったように、日本の社会も官民一体となってデジタル変革に進もうとしている。ひとたびある方向にみんなが動き出すと、一気に変わるのも日本の特徴ですから。
――日本ではPBXの市場が大きかったことから、コンタクトセンターの構築でも電話系の商材を扱ってきた国内ベンダーが強い市場だと思います。外資のITベンダーとしてどのように市場開拓を進めますか。
まさにメタル回線の終了・IP化が2025年に控えており、国内では多くの方がその準備に動いておられると思いますが、いわゆる電話系の業界の方々と一緒にビジネスをする機会が非常に多くなっています。5年後のコンタクトセンター市場がどうなるかを見ると、システム構築のビジネスも、これまでのように納入した製品を安定稼働させるだけでなく、DX・CXを看板として掲げざるを得なくなってくると思います。席数をどれだけ売ったかではなく、その先にどういうCXを届けることができるかが問われるという動きです。国内には業務システムやコールセンターの構築に強いベンダーやエンジニアの方々が大勢いらっしゃるので、先ほど申し上げたSoRとの連携など、手を取り合って新しい業界地図を作っていくのが我々の理想です。そうすることで、コンタクトセンターが社会にとってどれだけ有益なことをしているかを、企業の経営層を含む世の中全体にもっともっと知っていってほしいと思いますね。

Favorite Goods
サン・マイクロシステムズ時代に使っていたロゴ入りボールペンを現在も愛用している。同社での経験を通じてCXとは何かを考え抜き、細井社長のビジネス観の基礎が形成されたという。
眼光紙背 ~取材を終えて~
CXの本質は、四半世紀前から変わらない
「およそ四半世紀ぶりに、この業界に帰ってきました」
IT業界で約40年の経験をもつ細井洋一社長だが、コールセンター業界の仕事をするのは1990年代以来2回目だという。ただ、1回目は今と異なり、システムを利用するユーザー側だった。
当時のサン・マイクロシステムズ日本法人で、細井社長はダイレクトマーケティング事業の立ち上げを担当。それまでワークステーションが中心だったサンが、サーバー事業に本格進出する。新規顧客開拓とサプライ商品の提供のため、コールセンターを設置し、インサイドセールス部門を組織。保守部品の「即日お届け」サービスを開始するなど、現代のECサイト並みの高度な営業・サービス体制を確立していた。
そのとき国内最初期のユーザーとして導入したのが、ジェネシスのルーティングシステム。電話の発着信をコンピューターでさばくことで、業務効率が改善するばかりか、売り上げも顧客満足度もアップする。これは面白い。コールセンターは単なる問い合わせ窓口ではなく、かけがえのない顧客接点だ。まだ「カスタマーエクスペリエンス(CX)」という言葉はなかったが、CXの重要性は当時から肌で感じていた。
プロフィール
細井洋一
(ほそい よういち)
1954年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学法学部、米コルビー大学経済学部を卒業後、英バイテル・ネットワークの国内事業立ち上げに参画。87年、バイテル・ジャパン社長に就任。92年、サン・マイクロシステムズに入社し、その後常務を務める。日本SSAグローバル(現インフォアジャパン)社長、ハイペリオン社長、エヌビディア日本代表兼米本社バイスプレジデント、ジュニパーネットワークス社長を歴任。2012年、華為技術日本に入社し、法人事業のビジネスディベロップメント本部長や最高セキュリティ責任者を務める。17年3月より現職。
会社紹介
1990年、米カリフォルニア州で創業。CTI(コンピューター電話統合)技術の黎明期からコールセンターソリューションを手掛け、現在は企業と顧客のコミュニケーションを一元化するカスタマーエクスペリエンスプラットフォームを提供している。99年、仏アルカテル・ルーセントによって買収されるが、2012年に投資ファンドの出資を受け再び独立。16年にはクラウド型コールセンターソリューションの有力ベンダーである米インタラクティブ・インテリジェンスを約14億ドルで買収した。従業員数は世界5000人以上。日本法人は97年設立。