「抜きんでた力を持ち情報サービス業の技術革新をリードするトップガン人材、ITアスリートを一人でも多く輩出することが業界活性化に直結する」と、この6月の総会で情報サービス産業協会(JISA)会長に就任した原孝氏は話す。ITアスリートの背中を見た後進が、「自分もああなりたい」と思えるような交流の場をJISAがより多く提供していくことで、次の世代の人材育成へとつながる好循環をつくり出す。「今の情報サービス業に閉塞感があるとすれば、人びとに刺激や気づきを与える人材が少なすぎる」のが一因とし、グローバルで競争力のある人材を全国規模で育成していく活動に力を入れる。
情熱と能力ある会員幹部に
直接依頼
――JISA会長を引き受けることになった経緯をお話いただけますか。
前任の横塚さん(裕志・前JISA会長)から「ぜひ会長に」と頼まれ、断る理由もありませんので「分かりました」と快諾しました。JISAの会長は、任期を終えるときに次の会長を指名するのが慣例となっていますからね。
私の出身母体は、年商100億円余りのリンクレアです。取締役から常務、専務、社長、会長と昨年までの計26年間、役員を務めてきました。自分の出身母体が中堅SIerだからという訳ではありませんが、正直、私一人では何もできません。ですので、私のやりたいことを実力あるJISA会員のSIer出身者、経営者の方に直接お話して、賛同していただいた方に副会長に就いてもらいました。
――やりたいこととは、具体的にはどのようなことでしょう。
いろいろありますが、敢えて三つに絞るとすれば「人材開発」「地方会員の活性化」「グローバル」です。
情報サービス業は人材が全てですので、ここは絶対に譲れませんでした。SCSKの働き方改革の陣頭指揮を執り、実績をあげてきた福永さん(哲弥・SCSK取締役専務執行役員)に副会長に就いてもらい、人材革新委員会を担当してもらうことにしました。情報サービス業において、技術革新をリードするトップガン人材、ITアスリートと呼ばれる層をより厚くしていきたい。
トップガン人材、ITアスリートを育成するには、育成する環境そのものを変えていかなければなりません。私は、そのアプローチの一つが働き方改革だと考えています。働き方改革というと、残業をなくすとか、在宅勤務とかをイメージしがちです。そうした取り組みによって生産性を高めたり、働きやすい環境を整備することで就労人口の減少スピードを緩和したりと、いろいろ目的があるのは理解していますが、一方で、情報サービス業がなかなか手にできなかったトップガン人材、ITアスリートを育むのも働き方改革の一環。ですので、ここは福永さんにお願いするしかないと思いました。
人材と地方、グローバルの
三位一体
――地方とグローバルはどうですか。
人材は首都圏だけではありません。地方からもっと多くのITアスリートを輩出して、情報サービス業を一段と活性化させたい。地方のSIerや団体との合同企画や連携をより密にするため、長坂さん(正彦・ワイ・シー・シー社長)に副会長として企画連携委員会を担当してもらいます。長坂さんの会社は山梨県甲府市の地場SIerで、地方のことも詳しい。
グローバルについては、岩本さん(敏男・NTTデータ相談役)にお願いしました。社長時代にNTTデータを日本のSIerとして初めてのグローバルトップグループ入りさせるのに大きく貢献した人物。ただ、約600社からなるJISA会員の多くは中堅・中小SIerであることを考えると、現状としてみんなが大手SIerのようにグローバル市場に進出して、まとまった金額の外貨を稼げるとは限りません。
もちろん小規模SIerでも何か海外で競争力のある突出した技術や商品があれば、どんどん出て行くべきだと思いますが、それ以外にも、例えば海外の先進的な技術を取り込んだり、外国企業と協業したり、外国人を活用した社内のダイバーシティを進めたりと、グローバル関連でやるべきことはたくさんあります。なので、岩本さんには国際連携委員会だけでなく、技術革新委員会も担当してもらうことにしました。
ほかにも島田さん(俊夫・CAC Holdings特別顧問)には変革プロジェクト・ユニット、安永さん(登・情報技術開発会長)には経営革新委員会をそれぞれ副会長として担当してもらう布陣です。
――トップガン人材、ITアスリートとは具体的にどんな人物像でしょうか。
サッカーや野球、ゴルフのトップアスリートと同じです。日本から海外の第一線で活躍するようなアスリートが出ると、そのスポーツそのものが大いに盛り上がります。例えば、著名なエンジニアが地方で少人数の座談会やアイデアソンなどに参加すれば、きっといい刺激になりますし、何かに気づいて、学びとって、次のアスリートの輩出につながるはずです。
アスリートが具体的に何かを教える必要はありません。教えても伝わるものでもないと考えています。そうではなくて、アスリートの存在そのものや、彼らの背中を見た後進が「自分もああなりたい」と思い、明日のアスリートになっていく。今の情報サービス業に閉塞感があるとすれば、全国の情報サービス業に携わる人たちに刺激や気づきを与えるアスリート的な存在が、少なすぎるのが一因だと考えています。まずは、ここを何とかしたい。
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