ビジネスを常にアップデートする
――出戻りの背景には、何があったのでしょう。
それを話すには、もうちょっと前から説明しなければならないでしょうね。
私は島根県浜田市にある故郷の情報処理科を出て、90年に日立グループの戸塚事業所(神奈川県)に配属され、ソフトウェア開発に従事することになりました。それこそクラスで数人しか枠のない狭き門。親は随分喜んでくれました。決して裕福な家庭ではなかったのですが、「就職がんばるから」と言って、当時まだ高価だったMSX規格のパソコンを買ってもらい、独学でもプログラムを学んでいたパソコン少年。こうしたことが、学校や就職先の目にとまったのかも知れません。
ところが、上京して気が大きくなったのか、「ビジネスマンになりたい」と思ったのですね。日立のような大きな会社では、営業活動もチームで行いますので、一匹狼で事業を立ち上げるようなビジネスマンになろうと思ったら、転職するしかない。親はずいぶん気落ちしたようですが、私は日立を辞めて転職することにしたんです。それから「○○になりたい」「○○をやりたい」と思うタイミングで転職を繰り返す。自分で言うのも何ですが、ある意味、自分の欲望に素直なんでしょうね。
――それでも、ソフトクリエイトに戻ってきたのはなぜでしょうか。
ソフトクリエイトという会社が、常にワンランク上のビジネスを目指して、それを実現しているからです。もちろん転職ばかりで、格好が悪い私に「そろそろ戻ってきたらどうか」と呼び止め、再び受け入れてくれるソフトクリエイトという会社の度量の大きさが一番の理由ですけれど(笑)。
私が最初に入社したときは、パソコンショップの 「ソフトクリエイト」を手掛ける傍ら、法人向けにパソコンやビジネスソフトを販売するといった業態でした。その後、パソコンビジネスのコモディティー化を先読みするように業態を変えて、システム構築事業やEC(ネット通販)システム、当社のワークフローシステムと、自らビジネスを常にアップデートしている企業グループです。
――今回、エイトレッドのトップとなり、これまでと何か変わりましたか。
株主や顧客、従業員などのステークホルダーに対して負っている責任の重みがこれまでとは大きく違います。私はソフト開発から営業、広報、マーケティング、経営企画、新規事業の立ち上げとさまざまな職種を経験させてもらうことで得た知見を、全てエイトレッドのビジネスに生かします。前任の稲瀬さんのようなカリスマ性は無理かも知れませんが、協調を大切にして、顧客のほしいものをつくり、従業員のやりたいことを実現できる会社であり続ける。持てるもの全てを使ってビジネスを伸ばしていきます。
Favorite Goods
扇子や携帯扇風機などの“冷却グッズ”がお気に入り。情熱的な岡本氏は、体温も高めなのか「よく汗をかく」。それだけに夏季の冷却グッズにはこだわりがあり、自宅と移動中、職場のデスク用に最適なものを厳選しているとのこと。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「人を好きであり続ける」ことがビジネスの基本
社会人になった直後から「ワンランク上のビジネスマンになりたい」という思いが日増しに強くなった。転職先のソフトクリエイトで、ITインフラ商材の法人営業の担当となった頃に、ある顧客とのちょっとしたすれ違いから、上司宛にクレームの電話が入ることに。
翌日の朝イチで上司とともに客先に謝りに行く。上司は落ち着いた口調で話を聞き出し、見る間に顧客の怒りが収まっていく。仕舞いには「まぁ、これでお昼でも食べてくれ」と岡本氏は顧客からお小遣いまでもらう。
なぜ、上司がああまですんなりと顧客の懐に入って行けたのかが謎だったが、後になって「上司は顧客のことが好きで、常に寄り添い、顧客のビジネスに大きな関心をもっていたから」だと気づく。それとともに、故郷の母から「人を好きになりなさい」と言われたことを思い起こす。
社会人になって、いろいろな人と仕事をするが、中には反りが合わない人もいる。それでも絶対に嫌いになってはならないとの教えだ。「人を好きであり続ける」ことで、心の壁を取り除き、結果的に「ワンランク上のビジネスマンに近づけた」と振り返る。
プロフィール
岡本康広
(おかもと やすひろ)
1971年、島根県生まれ。90年、島根県立浜田商業高等学校情報処理科卒業。同年、日立ソフトウェアエンジニアリング(現日立ソリューションズ)入社。94年、ソフトクリエイト入社。99年、富士ソフトABC(現富士ソフト)に転職。2002年、再度ソフトクリエイト入社。13年、DMM.comに転職。17年、再々度ソフトクリエイト入社。18年、エートゥジェイ代表取締役副社長。19年6月21日、エイトレッド代表取締役社長就任。
会社紹介
ソフトクリエイトホールディングスグループのワークフローシステム開発ベンダーであるエイトレッドの昨年度(2019年3月期)の売上高は、前年度比30.8%増の14億4800万円、営業利益は58.4%増の5億1400万円。今年度の売上高は10.5%増の16億円、営業利益は8.8%増の5億6000万円を見込む。