今年11月、デルEMC日本法人のトップを約4年務めてきた平手智行氏が、グーグル・クラウドへ移籍するというニュースが舞い込んできた。性能の高さやAI機能の豊富さで知られるグーグルのクラウドサービスだが、平手代表の口から矢継ぎ早に飛び出したのは「SoRのデータ活用」。同社の技術を用いれば、硬直化していた日本企業の基幹業務システムに風穴を開け、長年しまい込まれていた「宝の山」にアクセスすることができるのだという。
グーグル・クラウドの魅力は
データ活用のための技術
――直近ではハードウェアメーカーであるデルEMCを率いてこられました。大手パブリッククラウド、中でも特に“とがった”イメージの強いグーグルへの移籍は、少し意外な印象です。
デルEMC時代の私のミッションは、ハードウェアをソフトウェア定義型のテクノロジーで変革していくことでした。お客様の物理サーバーや単純な仮想化基盤を、大きなハイブリッド/マルチクラウド環境へと進化させていく。これまではそのような変革を、言わば「オンプレミス側」から進めていたわけですが、今度は「クラウド側」から進めようとしている。どこから見るかの立ち位置は変わりましたが、見ているターゲットは同じなんです。
――パブリッククラウド市場は、Webサービスの世界を中心とした新しいITの需要を取り込むことで成長してきました。しかし、平手さんが来たからには、やはりグーグル・クラウドでは既存の業務システムのクラウド化に本気で取り組んでいくということでしょうか。
もちろん、「G Suite」やGoogle Cloud Platform(GCP)でご提供しているAIや機械学習のサービスは大きく伸びています。しかし、それらに加えて、今まさに日本のお客様に必要なのが、これまでのITをモダナイズする取り組みです。過去日本の経済成長を支えてきた基幹系の業務システムの多くは、まだまだオンプレミスで稼働しています。これらをモダナイズすれば、生産性や開発効率は向上し、運用コストは削減できます。結果としてお客様はデジタルシフトを加速できる。ERPを始めとした、基幹系システムをマルチクラウド環境の上でどう運用していくかに関して、お客様やパートナーを支援する体制を強化していきます。
――パブリッククラウドの中でも、グーグル・クラウドならではの強み、面白さは何でしょうか。
お客様の負荷やコストを大幅に削減できることがまず一つ。それに加えて、「データの利活用」を促進できる卓越したソリューションをたくさん持っていることです。前者に関しては、オンプレミスと他社のパブリッククラウドを含めた全ての環境でアプリケーション開発・実行できるプラットフォームの「Anthos」があります。しかも、仮想マシン上で動いている現在のシステムを、手直しなしでコンテナ化する「Migrate for Anthos」というツールも用意しています。
データの利活用に関しては、MySQL、Postgre
SQL、SQL Serverをフルマネージドサービスで提供しているだけでなく、クラウドに特化した超分散データベースの「Cloud Spanner」を用意しています。このような機能を組み合わせることで、モノリシックで作ってきた既存システムを疎結合化しながら、データを集約できるのが特徴です。現状の基幹システムでは、せっかくいいデータが蓄積されているのに、それを取り出せないという問題があります。これを解決したい。さらにデータをBigQueryで解析すれば、SoR(System of Record)でこれまで使い切れていなかったデータが、SoE(System of Engagement)で利活用できる資産に変わり、GCPのAI/機械学習機能を利用すれば、お客様はデータから新たな知見を得ることができます。
――グーグルの高度な技術は誰もが認めるところだと思いますが、エンタープライズに求められるサービスになるには、技術以外にも必要な要素があるのではないでしょうか。
まさにその通りで、卓越した技術やソリューションだけでは提供価値にはなりません。お客様の視点に照らし合わせると、ギャップや改善の余地がまだまだある。一つは、開発者・SIerとのパートナーエコシステムを構築することで、このギャップを埋めていきたいと考えています。
また、お客様の競争優位性を作り出すという点では、デジタルテクノロジーを活用した新しいビジネスモデルに着目する必要があります。従来であれば、すでに存在するビジネスのプロセスをIT化するという一方通行でしたが、今は、最新のテクノロジーがあるからこそ生まれる新しいビジネスモデルがあるわけです。新しいアーキテクチャーを積極的に理解して、お客様のビジネスモデル構築に取り入れてもらうことが必要ですので、ここに関してはコンサルティングファームとの協業を強化していきます。
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