数年前まで、競合のインテルに対し劣勢を強いられていたAMDが、2017年にPC用CPU「Ryzen(ライゼン)」、サーバー用CPU「EPYC(エピック)」を発売して以来、息を吹き返したように販売を伸ばしている。いよいよ国内のサーバー市場でも反転攻勢に乗り出す日本AMDの林田裕代表に、EPYC成功の要因と今後の採用拡大に向けた展望を聞いた。
反撃に必要だったブランク期間
――AMDはかつて「Opteron」で、インテルの「Xeon」にも劣らない勢いを見せていましたが、2017年の「EPYC」登場時点では、サーバー用CPU市場から実質的な撤退に近いところまで落ち込んでいました。
当社製品と競合との間で徐々に絶対的な性能差が顕在化する中、14年に本社CEOに就任したリサ・スーがまず手がけたのが、アーキテクチャーの見直しです。当時描かれていたロードマップを捨て、ゼロからCPUを作り直すことにしたのです。そこで生まれたのが「Zen」というアーキテクチャーで、旧世代と比べ性能が大幅に向上しました。
ただ、この開発には4年の歳月を要しました。サーバー市場のお客様は4~5年の保守契約を結ばれることが多いのですが、4年間新しい製品が出てこないと、当然競合に入れ替えられてしまいます。その間、サーバー市場における当社のシェアは0.3%まで落ちましたが、中途半端な製品ではユーザーをつかむことはできません。再び確実にシェアを伸ばすには、必須の決断だったと思います。
――4年のブランクを経ての再参入はかなりハードルが高かったと思いますが、市場の反応はいかがでしたか。
サーバーメーカーや販売チャネルの方々は、やはり最初はロードマップに不安を持たれていました。「中途半端に出てきて中途半端にやめられてしまうと大変な迷惑を被る」「本当に製品が続くの?」と。それだけ、Opteronの後継が出なかったことに対する失望感は大きかったのかもしれません。このため、第1世代のZenコアを搭載したEPYCを発売したときは、まだ“様子見”のお客様が多かったです。
しかし昨年8月、第2世代の「Zen 2」コアを当初の予定通り出荷することができました。第1世代の時点でも、性能そのものはアーリーアダプターのお客様から高く評価いただいていましたが、加えて次世代の製品をロードマップ通りにリリースしたことで、当初市場が抱いていた不安を払しょくできたのではないかと思います。
――Zenアーキテクチャーでは、なぜコストパフォーマンスの高いCPUを実現できるのでしょうか。
それには、Zenコアを「PC」と「サーバー」の両方に活用するというコンセプトが大きな役割を果たしています。Zen搭載製品ではサーバー向けのEPYCより先に、PC向けの8コアCPU「Ryzen 7」を発売しました。RyzenのCPUダイ(チップ)は、EPYCに使われているものと同じです。EPYCは、モノリシックで大きなダイで多数のコアを実現するのではなく、PCと同じダイを最大8個並べて64コアにしています。このアーキテクチャーを採用することで、量産効果でダイが安くなる。性能と同時に、価格に対する配慮もされている製品なんです。
――インテルが新世代の製造工程の立ち上げにつまずき、CPU市場では供給不足が続いています。今のAMDの勢いは、ライバルの失策に助けられた部分もあると思いますが、いずれは彼らも供給体制を整えてきます。どう迎え撃ちますか。
競合は今年に入ってから、既存製品のリフレッシュという形で値下げをしてきましたが、それに対して我々には、PC用のCPUが売れれば売れるほど、同じダイを使うサーバー用のCPUもコストが下がっていくという仕組みがあります。次に予定している「Zen 3」コアでも、この形態を踏襲していきます。来たるべき時代に対して、私たちには製品をコストダウンしていく余地がまだまだ残っていると考えています。
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