「パッケージ」から「ソリューション」へ
――その後の推移はいかがでしょう。
最初の転機は2002年頃ですね。内部統制システムの整備が義務化されていく流れの中で、ワークフロー市場が立ち上がり、当社のシステム共通基盤に含まれるワークフローを目当てに採用してくれるお客様が急増しました。開発リソースもそこに集中したんです。日本企業特有の複雑な意思決定にも徹底して対応していったら、それが強みになったんですね。08年頃までものすごい勢いで伸び続けて、そのおかげで07年に上場できたようなものです。
――ワークフローは今でもイントラマートのプラットフォーム製品の強みだと思いますが、現在ではBPM(業務プロセス管理)やRPAもカバーし、業務プロセス全体の最適化を支援するような機能を備えています。どういう意図をもった製品戦略だったのでしょうか。
好調だったワークフローも、大手企業の導入が一巡したらマチュアな市場になると予想していました。上場資金も使って、次の柱をつくるべきだと考えていたんです。5年くらいの時間をかけて、システム共通基盤製品を大々的にアップデートしました。何を狙ったかというと、もともと当社製品はワークフローを中心に業務のプロセスをつないでいくことに強みがあったわけですが、その外側にビジネスを拡充しようということでBPMも用意したんです。
BPMはIBMやオラクルが先行していた市場ですが、欧米の企業はプロセスがシンプルなので、彼らの製品もそれに合わせてつくられていて、日本企業が導入しようとすると膨大なカスタマイズが必要でした。当社はシステム共通基盤で培ってきたノウハウも生かして、日本の商慣習にもとづく複雑な業務プロセスに対応できる柔軟性や拡張性、開発生産性の高い製品を、外資ベンダーよりも圧倒的に安い価格で提供できています。
――働き方改革のトレンドの中で、業務プロセスを継続的に可視化・分析・改善して生産性向上を図る動きが顕在化し、BPMには改めて脚光が当たりつつあるという印象もあります。
そうなんですが、最初は全然売れなかったんですよ。ワークフローは業種業界を問わず汎用的に使えるツールなので拡販しやすい側面がありますが、業務プロセスは業種業界ごとに大きくその内容が違いますからね。最初はうちの社員もパートナーも、お客様の業務のことが全然分かってなかった。
――どうやって乗り越えたのでしょうか。
導入したけど使っていないお客様が結構いらっしゃったんです。パートナーとも協力して、とにかくそういうお客様に直接ヒアリングし、開発にフィードバックして地道に課題を潰していくことにしました。お客様の業務に関する知識やノウハウも、2~3年の時間をかけてそれなりに蓄積でき、課題に沿った提案ができるようになっていきました。
そうこうしているうちに、16年頃からは働き方改革が国の後押しも受けて大きなトレンドになり、業務プロセス改革もその重要な取り組みとして認知されるようになりましたし、RPAのブームもあって、BPMにロボットによる自動実行を組み合わせた生産性向上ソリューションも支持が高まりました。BPMは毎年50~60%と売り上げが伸びていますので、現在は順調ですね。
――都度、時流を捉えた機能拡張や新機能が市場に受け入れられてきたということでしょうが、結果を出す秘訣はあるんでしょうか。
市場や業界に構造的な変化が起きている中で次のバージョンで何をコンセプトにするかは、博打に近いところもあるんです。ただ、パッケージ型の製品ではマーケティングの知識やセオリーに則って、仮説を出して、PDCAを高速で回し、細かな軌道修正を行いながら意思決定していくことが非常に重要だと思っています。特に日本のIT業界にはなかなか根付いていない文化ですね。
――ワークフローを前面に押し出していた時代とは、パートナーエコシステムの在り方も変わっているということでしょうか。
拡販は従来のやり方ではうまくいきませんね。当社はパッケージベンダーからソリューションベンダーに進化しようという目標を掲げています。本質は、お客様に価値を提供することです。だからパートナーの役割も、より付加価値を重視したものに変わってきています。特にBPM機能を出してから、業種業界ごとのソリューションを共創する、つまり価値を一緒につくっていく協業の形が増えています。人月商売から価値提供型のサービスビジネスに移行したいというSIerにとっても、当社とのパートナーシップはメリットが大きいはずです。
デジタルトランスフォーメーション(DX)も大きなトレンドですが、ポイントは顧客接点に近い部分まで含めて、いかにデジタルテクノロジーの力で改善できるかです。「おもてなし」という概念に代表されるように、日本企業が伝統的に強みを持つこの領域も含め、当社製品・ソリューションは、トータルでビジネスオペレーションの変革を支援できるものに仕上がっていると自負しています。「ユーザーの業務に柔らかくフィットするパッケージ」という思想は変わっていませんし、DX時代だからこそより大きな価値を提供できると思っています。
Favorite
Goods
53歳の誕生日を迎えた昨年6月、社員が贈ってくれたオリジナルのTシャツ。手作り感にあふれているところに社員との絆を感じているという。同社イベントで着用することもあるほどのお気に入りの一品だ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ITは“ソリューション”であるべきという哲学
東京大学大学院の修士課程では、生命情報工学を専攻した。DNAなど生物学上のデータを、情報科学の手法を用いて分析する学問分野であり、まだまだ非力だったものの、シミュレーションに使われるコンピューターの進化の可能性には着目せざるをえなかった。「医療分野のみならず、社会全体を根本的に変えていくのではないかというインパクトをITに感じた」という。
ユーザーとしての価値の発見がIT業界を志した原体験だったが故か、ITがユーザー視点での“ソリューション”(課題の解決策)であるべきだという価値観は現在まで一貫しており、変わることはない。NTTデータで携わったERPビジネスも、そこにソリューションとしての価値を見出したからこそ、全力で打ち込むことができた。
「2025年の崖」の指摘など、日本企業のデジタル技術の活用やビジネス変革の遅れを指摘する声は大きいが、強みを生かした日本流の改革で競争力を取り戻す余地はまだまだあると考えている。それを支援するソリューションを提供することに、ITベンダーとしての成長の活路を見出している。
プロフィール
中山義人
(なかやま よしひと)
1966年、山梨県生まれ。92年、東京大学大学院修士課程(生命情報工学専攻)修了。同年、NTTデータ通信(現NTTデータ)入社。98年、NTTデータ イントラマートプロジェクト発足。00年、NTTデータ イントラマート設立に伴い代表取締役常務に就任。2001年6月、代表取締役社長。以降、20年近く同社の舵取りを担ってきた。
会社紹介
1998年、NTTデータの社内ベンチャーとして事業を開始。2000年にウェブ対応のアプリケーション基盤「intra-mart」の開発を中核事業とするNTTデータ イントラマートとして独立。2007年、東証マザーズに株式上場。19年3月期の業績は売上高が64億9000万円、営業利益は6億8600万円。