今年10月施行の2020年度税制改正により電子帳簿保存制度が見直され、電子取引のデータそのものが証憑として認められるようになる。「経費精算の全自動化」を追求すべく、ビジネスにおけるキャッシュレス決済を推進してきたコンカーの三村真宗社長は、この改正を事業環境整備の一つの到達点と見る。奇貨居くべし。新型コロナ禍も、生活やビジネスを多方面からデジタル化する強い推進力になりつつある。経費精算の要らない世界の実現に向け、アクセルをさらに踏み込む。
日本のSMB市場開拓に
米本社も本気
――近年の法人向けIT市場では、働き方改革に対する継続的な投資が目立っています。その流れの中でコンカーも順調に伸びているという印象です。
3年前は日本の時価総額トップ100の企業のうち、4分の1がコンカーを導入しているという状況でした。現在はそれが2分の1近く、46社まできています。
――もともと日本でビジネスを始めた当初は大企業にターゲットを絞っておられましたよね。まさにそこで強みを発揮した結果ということでしょうか。
大企業に絞って当社の価値を訴求するやり方が、一定の成果を得たのは間違いありません。ただ、3年前からは中堅中小企業向けのビジネスも本格化させ、順調に伸びてきています。そして近く、リセラープログラムを正式に開始して、SMB向けビジネスをさらに伸ばそうとしています。
――これまではリファーラルやインプリのパートナーはいてもリセールのパートナープログラムは整備されていなかったということでしょうか。
そうなんです。さらに、SMBに関してはユーザー数ベースの価格体系に移行するという大きな判断をしようとしています。現在はトランザクションベース、つまり経費精算の回数ベースで課金していて、大手企業にはコストパフォーマンスが高いということで喜んでもらえるんですが、SMBのお客様にとってはややこしい料金体系として敬遠されてしまうことがありました。パートナーが再販する場合も、見積もりがやりづらいという声があります。
コンカーの歴史上、これは非常に大きな変化です。それだけグローバルで見ても日本市場のSMB開拓に本気だということです。
――新しい価格体系を設けるのはグローバルでも共通の動きなのでしょうか。
いいえ、これは日本市場だけの特例です。パートナー向けの仕切り価格もきちんと決めて、提案、見積もり、契約まで全部リセラーにやっていただけるようにします。
幸い、非常に多くのパートナー企業が興味を示してくれていて、数社とは年内にビジネスを始められる見込みです。
社内ではSMB向けの「Concur Expense Standard」という製品の営業を担当しているのは数十人ですが、市場全体で見れば数百人の営業パーソンが全国のSMBにこれを提案してくれるエコシステムをつくろうとしています。
リセールプログラム開始に向け
社内体制も整備
――大企業向け商材を展開しているベンダーがSMB向けにビジネスを拡大するのはよくある話ですが、必ずしもうまくいっていないですね。
大企業に対しては、CFOへのアプローチがマーケティング上の戦略でしたが、SMB市場は面でのアプローチが重要です。今年からマーケティングキャンペーンのやり方もだいぶ変えました。「レシートモンスター」というマスコットキャラクターをつくって、タクシー広告や電車内のサイネージ、中吊りなどでもかなりプロモーション展開して、硬い大手向け製品のベンダーというイメージを柔らかくできましたし、認知度も上がりました。Web経由の引き合いも2.5倍に増えて、これも直近のSMBユーザーの伸びに貢献しています。
――少なくともコンカーに限っては、日本のSMB市場の開拓は現在のところうまくいっているということでしょうか。
これは繰り返しお伝えしていることですが、英語圏だとSMBのほうが売り上げが大きいんです。SMBは投資余力の問題もあってシステムを自社ではつくれないですから、完全にクラウドシフトが進んでいて、結果、コンカーは経費精算のデファクトスタンダードになっているという側面があります。
――日本市場のユーザーの内訳もそれに近づいているんでしょうか。
まだ大手のほうが売り上げは多いですが、経費精算の件数ベースで言えば、SMBが3分の2を占めるようになっています。
SMB向けには、経費精算のクラウドサービスに加えて、請求書管理も提供しています。これにより、従業員向けの経費と外注経費を全部コンカーでカバーできますので、こうした品ぞろえもかなり評価されてきていると感じます。
――本格的に再販ビジネスを始めるにあたって、社内の体制整備も進めているのでしょうか。
アライアンス部門と直販営業部門があったんですが、その隙間を埋める存在として、パートナーセールスの人員を増やしています。アライアンス部門はパートナーとの関係づくりに従事するので、個別の案件にはあまり入っていきません。パートナーセールスは、パートナーの個別の営業活動まで踏み込んで支援していきます。
従来は直販営業がパートナーさんにご紹介いただいた案件に入っていってクロージングまでやっていたんですが、クロージングはパートナーにお任せしてそれを横から支えるということです。
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