ビジネスキャッシュレスの
環境は整った
――経費精算のいらない世界をつくりたいという大きな目標を掲げておられます。どんなロードマップなのか改めてうかがいます。
経費精算をなくすには大きく三つのステップが必要だと考えています。その一つめが「ビジネスキャッシュレス構想」です。ビジネスにおけるさまざまな支払いをキャッシュレスにすることで、経費精算システムにデータが自動的に集まってきて、かつデータそのものに証憑性を持たせる仕組みをつくる。
二つめのステップが「承認レス」です。データがデジタルに集まってくれば、そこにルールをぶつけることによって自動的に違反や不正を検知できます。そこで引っかからない限り、上長や経理が確認せずとも支払いまでやってしまう。
三つめのステップが「AI不正検知」で、悪意のある不正はルールに従った検知だけでは見つけられないので、蓄積されたデータをAIが解析して、不正の芽があればディープダイブして取り締まる。これによって検知の粒度が上がりますし、強いけん制効果もあります。
これらが全部機能した世界を想像してみてください。電子決済をしたら、勝手にデータが経費精算システムに入って、承認もなく流れていって支払われるわけですから、経費精算という業務の概念がなくなるわけです。
――承認レスなどはユーザー企業側の心理的ハードルも高そうですが……。
経営判断ですよね。現場のデメリットは全くありません。自動化されればヒューマンエラーもないですし。野村総合研究所などがすでに導入して成果を出し始めています。
――経費の全自動化に向けた進捗は。
経産省の調査では75%の人がビジネスの経費はキャッシュレスで支払いたいと考えているという結果が出ています。新型コロナの影響で、現金に触れることを避ける動きも出るでしょうから、キャッシュレス化はさらに進むでしょう。
また、決済データそのものに証憑性を持たせることも、今年度の税制改正でようやく実現され、10月1日に施行されます。我々が望んでいた法制度改正も一区切りついたというところですね。
これに対応して、コンカーに自動でデータが集まってくるように、さまざまな連携を整備してきました。法人カードブランド、QRコード決済事業者、タクシー配車アプリとの連携はすでに発表していますが、交通系ICカード「Suica」「nimoca」との連携も開発中です。また、OCR取り込みでは主要複合機メーカーとも連携していますね。
こうしたエコシステムがあるからこそ、コンカーが他社と決定的に違う価値を提供できると思っていて、ビジネスキャッシュレス構想はかなりいいところまできています。承認レスは申し上げたように既に何社かで運用が始まっていますし、AI不正検知も年内には具体的なソリューションを発表できる見込みです。
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遠隔会議が多くなったアンダーコロナの業務ではワイヤレスイヤホンが必須となり、アップルの「AirPods Pro」を愛用中だ。また、iPhoneと合わせて「Apple Watch」も常に身につけている。睡眠計として使い、体調管理にも万全を期す。
眼光紙背 ~取材を終えて~
社会を変えるために行動してきた
以前から「日本企業のキャッスレス化はわれわれの責任だ」と公言してきた。2020年度の税制改正では電子帳簿保存制度が見直され(10月1日施行)、キャッシュレス決済の利用明細データそのものを証憑として扱うことができるように要件が緩和される。これにより紙の領収書は不要になり、コンカーがクラウドソリューションを提供する経費精算まわりの業務はペーパーレス化が進む。関連事業者も巻き込み、ロビー活動を積極的に行ってきた成果の一つだ。自社の強みと社会課題を意識しながら、ビジネスの土壌を整えてきた。
コンカーは日本市場での売上高がグローバル全体の13%を占める。3年前の時点では、米国、英国に次ぐ大きさの市場に過ぎなかったが、直近の実績では堂々のグローバル2位。「英仏独の3カ国の市場を合計した規模とほぼ同規模まで成長している」と手応えを語る。
新型コロナウイルスの影響により、ビジネスでも外出や出張が少なくとも当面は抑制傾向になる可能性が高い。「経費精算のボリュームは下がるだろうが、キャッシュレス化や業務のデジタル化は間違いなく進み、ユーザーにコンカーの価値を感じていただける場面は増える」と言い切る。事業環境が整う今年、大きな飛躍を期す。
プロフィール
三村真宗
(みむら まさむね)
1969年、東京都出身。93年、慶應義塾大学法学部を卒業後、SAPジャパンに創業メンバーとして入社。ビジネス・インテリジェンス事業本部長、社長室長、戦略製品事業バイスプレジデントなどを歴任する。2006年、マッキンゼー・アンド・カンパニーに移籍し、金融や通信業界のIT戦略策定、ソフトウェア事業のBPRなどに従事。09年、ベタープレイス・ジャパンのシニアバイスプレジデント。11年10月、コンカー日本法人の代表取締役社長に就任し、現在に至る。
会社紹介
クラウド型経費精算サービスを提供する米Concur Technologiesの日本法人として、2011年2月にサンブリッジと合弁で設立。14年にSAPグループの一員に。グローバルでは4万6000社6600万人、日本では1000社以上の導入実績がある。